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もし鴻海会長が台湾総統に…シャープにとっての最悪シナリオ

プラス効果期待も、経営から離れれば解体論に現実味
もし鴻海会長が台湾総統に…シャープにとっての最悪シナリオ

17年に米トランプ大統領と面会した郭会長(トランプ公式FBページ)

 台湾・鴻海精密工業を率いる郭台銘会長が2020年1月の台湾総統選に出馬表明したことで、傘下にあるシャープの経営への影響に注目が集まっている。中国の政財界と米国トランプ大統領の双方に太いパイプを持つ郭氏。総統に当選した場合、鴻海の経営からは離れる。ただ、直ちに影響力がなくなるわけではなく「米中貿易摩擦のリスクを一段と回避しやすくなるのではないか」(シャープOB)とプラスに作用するという見方もある。

 「鴻海ひいてはシャープにとって、郭氏の出馬はポジティブなニュースと受け止めている。郭氏は米中両国と絶妙な距離感を保つ希代のネゴシエーター。鴻海は米中貿易摩擦のリスクを一段と回避しやすくなるのではないか」。シャープOBの一人は分析する。念頭にあるのは、米中貿易摩擦のやり玉にされ、米国市場から締め出された華為技術(ファーウェイ)だ。

 鴻海は台湾企業でありながら製造拠点の大半を中国大陸部に置く。複雑な政治問題を抱える中国と台湾の間で、こうした拠点展開を可能としているのは、郭氏の中国政財界とのパイプがあってこそ。シャープもこれら鴻海の中国拠点を活用することで、中国国内における販売戦略を強化できた。

 一方で米トランプ大統領が就任した17年、郭氏はいち早く、大型液晶工場を米国に建設する計画をぶち上げた。1兆円とも言われる大型プロジェクトは、内容の修正を繰り返しながらも、粛々と進んでいる。米国重視の姿勢は、国際情勢の潮目を敏感にかぎ取る台湾経営者特有の生き残り策といえる。

 郭氏が総統に就けば「我田引水にならぬよう、うまく鴻海、シャープの成長を後押しするのではないか」(前出のシャープOB)。では、鴻海とシャープの関係にどのような変化が訪れるのか。

 元々、台湾では16年のシャープ買収に否定的な意見が多かった。液晶技術などを吸収し、リストラ効果による黒字転換を果たした今、「シャープを解体し、売却する準備を着々と進めているのではないか」(シャープの取引先幹部)との臆測が流れる。

 しかし、家電業界の動向に詳しい早稲田大学の長内厚教授は「米アップル向けビジネスで苦戦を強いられる中、シャープを売却することはないだろう」と冷静に見通す。高精細の8Kや有機ELなど独自技術で強みを持つシャープを手放すとは考えにくいとみる。

 リスクは、郭氏が経営から離れた後の組織のパワーバランスの変化だ。戴正呉会長兼社長をはじめ、シャープの取締役のほとんどは鴻海出身者で占め、彼らと郭氏個人のパイプがシャープの命運を左右する。

 郭氏が総統になっても当面、鴻海は“郭体制”を踏襲するだろうが、郭氏が表立って人事を含めた経営に介入するのは不可能だ。シャープに否定的な見方を持つ強行派が幹部に就かぬとも限らない。その時、シャープ解体論が現実味を帯びる。
(大阪・園尾雅之、同・平岡乾)


日刊工業新聞2019年4月19日

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