ゲノム編集技術を難病治療に、米VBがビル・ゲイツ氏らから1億2000万ドル調達

がんや網膜疾患、鎌状赤血球貧血など対象

 最先端のゲノム(全遺伝情報)編集技術として話題のCRISPR/Cas9(クリスパー・キャスナイン)を使って難病の治療法開発に取り組む米国のベンチャー企業が、投資グループから1億2000万ドルの資金を調達した。フォーブズ誌などによれば、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏個人も投資グループに参加しているという。このベンチャーはエディタス・メディシン(マサチューセッツ州ケンブリッジ)で、従来の遺伝子治療では難しかった血液がんや網膜疾患、鎌状赤血球貧血などの治療法の開発につなげる。

 エディタス・メディシンは、CRISPR/Cas9の発見者の一人で、ハーバード大学とマサチューセッツ工科大学(MIT)が共同運営するブロード研究所のフェン・チャン博士(MIT助教授)らが創設メンバー。ベンチャーキャピタルから4300万ドルを調達し、2013年に設立された。

 CRISPR/Cas9は、もともとはバクテリアの免疫機構で、ウイルスなどの外来DNAの断片を”免疫の記憶”としてゲノムの特定の位置に取り込む仕組みを応用した第3世代の遺伝子編集技術。哺乳類など幅広い生物について、従来手法に比べて容易かつ正確に狙った遺伝子の機能を破壊したり、ピンポイントで遺伝子を置き換えたりすることができるという。

 同社のシリーズBへの出資者は、ビル&メリンダ・ゲイツ財団の主席科学技術顧問を務めた経験があり、現在は投資会社bng0社長のボリス・ニコリック氏率いる投資グループ。医師でもあるニコリック氏はニュースリリースで「エディタスは、現在の科学でもっともエキサイティングかつ重要なフロンティアの一つであるゲノム編集の最前線にいる」と同社の将来性を強調している。

 一方、CRISPR/Cas9をめぐっては、中国・中山大学などの研究チームが同手法を使ってヒトの受精卵の遺伝子を世界で初めて編集したと4月に論文発表。これを受けて世界中で議論が巻き起こり、科学者からは、安全性や倫理上の問題からヒトの生殖細胞にゲノム編集を適用するべきではないとの声があがっている。

 さらに、誰がこの手法の発見者かという問題もくすぶっている。CRISPR/Cas9でゲノムの狙った領域を切断できることを示した初の論文が掲載されたのは、2012年6月の米科学誌サイエンス電子版。フランス人でスウェーデン・ウメオ大学のエマニュエル・シャルパンティエ客員教授(独ヘルムホルツ感染研究センター教授)と、カリフォルニア大学バークレー校のジェニファー・ダウドナ教授による研究成果だ。

 ダウドナ教授らは特許を同年5月に出願したが、これに対しブロード研究所のチャン博士側が先に発見していたと訴え、その証拠として米国特許商標庁(USPTO)に実験ノートを提出。結果としてCRISPR/Cas9の真核生物細胞での有用性についてはブロード研究所が2014年に特許を取得した経緯がある。ただ、これにはカリフォルニア大学側も納得せず、USPTOに対して発明者を再考するよう要請するなど、特許をめぐって米国を代表する両研究機関の対立が続いている。

ニュースイッチオリジナル
エディタス・メディシンの発表

藤元 正

藤元 正
08月18日
この記事のファシリテーター

臨床応用はまだ先でしょうが、近い将来、CRISPR/Cas9自体がたぶんノーベル賞の対象テーマとなることでしょう。それだけ強力な技術なので。果たしてその際、受賞者には記事中の3人の科学者が並ぶことになるのかどうか...。

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石井 哲也
石井 哲也
08月18日
Cas9ではないですが、ZFNでCCR5を破壊したCD4+ T細胞の移植治療臨床試験がすでに進められています。
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1300662
  

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