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CASE時代へ、東京事務所の“壁”を壊したアイシン精機の危機感

【連載・企業研究(1)アイシン精機】
CASE時代へ、東京事務所の“壁”を壊したアイシン精機の危機感

東京事務所ではグループ会社を分けていた壁を撤去し、協業しやすい体制を構築した(アイシン精機提供)

 217社―。自動車部品で世界6位のアイシン精機が抱えるグループ会社の数だ。製品ごとに事業の独立性を尊重してきた同社は、2017年4月、その路線を大きく転換した。グループ企業を仮想の社内カンパニー傘下に置く「バーチャルカンパニー」(VC)制の導入だ。自動車産業の「100年に1度の大変革期」を前に、経営戦略の核を「事業分社による専業化」から「グループ融合」にシフトし始めている。

生まれたムダ


 18年初頭、アイシン精機社長の伊勢清貴は、子会社であるアイシン・エーアイの工場を視察していた。自動変速機(AT)部品を生産するラインは、グループ会社のアイシン・エィ・ダブリュと同じ。なのに生産性は5%低い。なぜ成果を上げている方に教えてもらわないのか。技術者の「いえ、自分たちで改善します」との答えに、伊勢は衝撃を受けた。「グループ企業間の壁は厚い」。思わず本音が漏れた。

 変速機やブレーキ、シート、ECUなど機械系から電気系まで幅広い自動車部品を手がけるアイシンは業容拡大に伴い分社化経営を進め、プロ集団を作ることで意思決定を早めてきた。M&A(合併・買収)も積極的に実施。個社の技術力や専門性を高め、18年3月期には売上高3兆9089億円、営業利益2538億円の規模まで成長した。しかしその過程で事業領域や生産・開発工程の重複も増え非効率な部分やムダが生まれていた。

 ここにメスを入れたのが、前社長の伊原保守。「効率化を含め今までと違うやり方をしないと、これからの競争には勝てない」。危機感から、グループ主要14社を中心に変速機が軸の「パワートレイン」、ブレーキなどの「走行安全」、ドアやシートなどの「車体」、カーナビゲーションシステムなどの「情報・電子」、部品販売などの「アフターマーケット」という機能別の五つの仮想カンパニーに配分。各VCに横串を通す「グループ本社」を加えた体制を構築した。

各社の壁壊す


 CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)時代にはグループの連携を強め、相乗効果を生むことが重要だ。そのためには「VC内で選択と集中を行いムダをなくし、筋肉質な体制を作ることが必須」(伊勢)。各社の壁を壊すことが最優先だ。

 「これ、取り払えばいいじゃん」。東京の営業拠点を訪れた伊勢は、壁を見上げて声を上げた。同拠点にはグループの6社ほどが同じフロアに集まっているが、壁で隔たれ交流はほとんどなかった。グループで同じ顧客を担当することも多い。オープンスペースにすれば隣の声が聞こえ、仕事が進めやすい。18年秋、各社を遮っていた壁は撤去された。

 VC制を導入して約2年。グループ間での人材シフトや拠点の集約など、徐々に壁は取り払われつつある。伊勢は戦略のさらなる加速を誓う。(敬称略)
(文=政年 佐貴惠)

 世界経済の先行きが不透明な中、日本企業はいかに新たな成長軌道を模索していくのか。各社が下す経営判断を連載で検証する。

連載・企業研究 アイシン精機


【01】CASE時代へ、東京事務所の“壁”を壊したアイシン精機の危機感(2019年4月1日配信)
【02】経営改革を断行する“連結の申し子”のビジョン(2019年4月2日配信)
【03】グループ企業の経営統合へ突き動かしたドイツの脅威(2019年4月3日配信)
【04】「絶対に負けられない」電動化対応ブレーキの戦い(2019年4月4日配信)
【05】競合相手と統合して得たモノ、得ていないモノ(2019年4月5日配信)
【06】シートやドアを自動制御、コンセプトカーが現実になる日(2019年4月6日配信)
【07】規模3年で倍に、成長性を確信する事業の正体(2019年4月7日配信)
【08】CASE対応へ社長が考える選択と集中の軸(2019年4月8日配信)
日刊工業新聞2019年3月19日
政年佐貴惠
政年佐貴惠 Masatoshi Sakie 名古屋支社編集部 記者
200を超えるグループ企業を抱えるアイシンが、グループ全体を対象にした仮想のカンパニー制度を導入した。各社を尊重しつつも、より効率的で一体感のある「ワン・アイシン」をどう実現するかを考えた末に繰り出した一手だ。その狙いや経営陣が抱える危機感、各カンパニーの取り組みなどを、各カンパニープレジデントの発言と共に連載で解説します。

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