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成立の公算も…伊藤忠によるデサントへのTOBは「中途半端」

協議物別れ、溝深く
 伊藤忠商事によるデサントへのTOB(株式公開買い付け)期限である14日まで、1週間を切った。伊藤忠は子会社を通じてTOBを実施中で、デサント株の保有比率を30・44%から最大40・00%まで引き上げを目指す。デサントは対抗TOBやホワイトナイト(友好的買収企業)など有効な防衛策を講じず、今回のTOBが成立する公算が大きい。焦点は伊藤忠がデサントの支配権を実質的に握った後のかじ取りに移る。

 1月31日の伊藤忠によるTOB発表後、両社の話し合いは4回行われたが折り合いが付かず打ち切りとなり、TOB終了後にあらためて対話が行われることになっている。

 国内では類を見ない上場企業同士による今回の攻防は伊藤忠が優勢で、デサントは瀬戸際に立たされているが、M&A(合併・買収)に携わる実務家などからはTOBに関する制度の未整備を指摘する声も上がる。それと言うのも、今回のTOBは買い付けに応募した株式数が上限を上回ったとしても、伊藤忠の持ち分は40%を超えないからだ。

 「経営権を握る51%超の株式を取得する形でTOBをかけるのが常道であり、40%を上限とするのは中途半端だ」(M&Aアドバイザリー関係者)。強硬な印象を持たれないようにするこうしたTOBに対し海外の投資ファンド関係者なども疑問視しており、「日本の制度が遅れているととられかねない」(同)という指摘もある。

 一方のデサントは、伊藤忠による「(デサントの)石本雅敏社長と協議したが、交渉態度が不誠実で打ち切った」という発言は「抽象的で言いたい事が分からない。両者の意見に隔たりがあった」(辻本謙一取締役兼最高財務責任者・CFO)とし、両者の溝は一層深まっている。

 もっとも「プロキシーファイト(委任状争奪戦)になればデサントの企業価値が毀損(きそん)する」(同)。これは両者にとって好ましくない。

 デサント労組も今回のTOBに関し「当社の価値を支える労使の信頼関係が失われ、雇用や労働条件へ重大な影響が及ぶ」と反対声明文を出している。

 TOB対抗策の一助として前倒して発表するデサントの次期中期経営計画は、日本と韓国のR&Dセンターを活用した独自のアパレル、シューズ製品の開発・販売強化などを骨子とするが、具体性や新鮮味に欠け苦しい。なんとか建設的な対話に持ち込み、独自の経営を貫きたいデサントだが、待ち受けるのはいばらの道とみられる。
(文=編集委員・宮里秀司、大阪・大原佑美子)

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