不思議な液体「磁性流体」、スマホからEVに広がる潜在力

パイオニア企業、フェローテックが担うイノベーション

 磁力に反応すると、花弁が開いたかのように変形する黒色の不思議な液体、磁性流体。1960年代に、宇宙での無重力の中で宇宙船内部の液体燃料を送るにはどうすれば良いか、という米航空宇宙局(NASA)のスペースプログラムの中で開発された。

 界面活性剤を用いて水や油に磁性体の微粒子を分散させたもので、磁場に反応するのが特徴だ。69年にアポロ計画は終了、採用には至らなかったが、開発者であるローゼンスワイク博士が米国でフェローフルイディクス社を設立した。

 磁性流体は見慣れない物質ではあるが日常生活を支えている。身近な製品では高画質の「4Kテレビ」など。放熱や振動抑制で音質向上に役立つ。

 また、半導体の製造装置に使用する真空シールにも使用されており、密閉された真空空間での精密な成膜加工において欠かせない。

 磁性流体で圧倒的な存在感を持つ企業がフェローテックホールディングス。フェローフルイディックスで副社長を務めていた山村章氏は、現地でこの物質の潜在的な可能性を感じていた。1980年に日本に帰国し、日本側の現地法人となる「日本フェローフルイディクス」(現フェローテックホールディングス)を立ちあげ、社長として成長を支えてきた。
 
 磁性流体はあらゆる可能性を秘めているが、弱点もある。酸素が存在する環境で使用すると劣化すること。廣田泰丈FF営業部長兼技術部副部長は「いかに工業用途で長寿命化できるかが、我々技術者のノウハウにかかっている」と話す。

 弱点の克服と同時に高品質化も進めており、「感温性磁性流体」は期待の製品だ。理由は、自動車業界向けに磁性流体の特性を活用した次世代型のヒートパイプの用途が見込まれるからだ。

 電気自動車(EV)の開発競争が活溌化する中で、熱の輸送と電力セーブは大きな課題。熱問題を解決するために従来のモーターポンプを使うと電力消費が激しくなってしまう。

 同社が提案するヒートパイプは温度で磁化が変わる磁性流体を活用、電気を使用せず自動的にパイプ内で循環させる仕組み。クーラントやラジエーターの代替として期待されており、全社横断で進めている「オートモーティブ・プロジェクト」でインバーターやバッテリーの構成部品として市場開拓を狙っている。

 磁性流体の製造メーカーは他社にもあるが、フェローテックはパイオニア企業として高品質な製品を提供し続けるという使命感が強い。そのため早くから生産体制も事業継続計画(BCP)対策を意識してきた。

 メインの製造拠点である千葉県匝瑳市の千葉工場と米・ボストン近郊の工場による“デュアル・マニュファクチュアリング”を構築し、どちらかに問題が発生した場合でも、両拠点で相互補填を行い、他者に頼ることをしていない。

 そして磁性流体は若手人材の育成も担っている。米国で研修を開くなど、グローバルな教育プログラムを積極的に開催。研修を受けた入社3年目の浅井笙平氏(技術部FF製品技術課)は「一つの分野だけでなく多岐にわたり学ばなければならない。難しいけど面白い」と目を輝かせる。

 フェローテックにとって磁性流体は会社のDNAであり、技術開発や人材育成の基盤であるとともに、今後も成長へと導く宝でもある。

指導する廣田部長


  

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