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特需を狙え!素材業界が5Gに虎視眈々

高周波材料などに期待
特需を狙え!素材業界が5Gに虎視眈々

AGCが5G向けに開発した合成石英ガラスアンテナ(AGC提供)

第5世代通信(5G)の登場は2019年の素材業界に新たな需要を創出しそうだ。高速大容量通信に加えて、特徴の低遅延と同時接続端末の増加は産業界のビジネスモデルを変革しうる。米中間の技術覇権争いで次世代通信が主戦場になっていることからも明白だ。国内でも来夏の試験サービス開始をきっかけに、高周波材料など素材需要の急拡大が期待される。

メガトレンド
 5Gで使うギガヘルツ帯(ギガは10億)の高周波信号対応では伝送損失を抑える低誘電率、低誘電正接の基板材料などが必要だ。そこで住友化学が拡販を狙っているのがスーパーエンジニアリング樹脂の液晶ポリマー(LCP)だ。

 従来は耐熱性や流動性が評価されて主にコネクター用途で普及してきた。5Gで求められる電気特性や高温多湿下の使用に向く低吸水性を有しており、高周波基板材料として次世代通信の追い風に乗りたいところだ。

 住友化学はLCP世界大手の一角であり、加工性に優れる溶融式と、薄膜化に適した溶液式の両方を手がける唯一のメーカーだ。競合するポリイミド樹脂にない特徴を訴求して、5G時代に事業拡大を目指す。

 三菱ガス化学が世界シェアトップを握る半導体パッケージ材料のBT積層板も期待が膨らむ。低コスト、耐熱性に加えて電気特性にも優れ、90年代から半導体パッケージのスタンダードの地位を確立した。

 現中期経営計画で重点領域の一つに「情報・通信」を掲げており、三菱ガス化学にとって5Gはその本丸だ。世界のメガトレンドを見据えながら、さらなる材料開発に努める。

限りなく透明
 AGCは5G向けの合成石英ガラスアンテナを開発した。車載用や室内外用アンテナとしての実用化を目指し、19年からサンプル出荷を始める。電気信号の伝送損失が小さい高純度の合成石英ガラスを使用。さらに金属のアンテナパターンに微細なメッシュ加工を施すことで、同パターンを限りなく透明に近づけた。視認できる場所に設置しても景観を損なわず、視界の遮りも最小限に抑えられる。

 AGCは5G向けプリント基板の材料となるフッ素樹脂製品の生産能力増強にも取り組む。千葉工場(千葉県市原市)に専用の製造設備を新設し、19年9月に稼働する予定だ。生産能力は明らかにしていないが、現在比で10倍程度になるとみられる。

 フッ素樹脂は既存の樹脂材料に比べて伝送損失が低く、高周波帯を利用する5Gの実用化で需要が大幅に増えると予想する。主な用途として、銅箔(はく)と絶縁樹脂を重ね合わせた構造をなす銅張積層板(CCL)を想定。周波数28ギガヘルツ帯で比べた場合、既存の樹脂材料よりも伝送損失を30%以上低減できるとしている。

 さらにCCL関連では、超低損失CCLの技術を持つ米パーク・エレクトロケミカル(ニューヨーク州)のCCL事業を約160億円で買収した。成長分野と位置付ける次世代高速通信の領域で事業拡大を狙う。

薄型化も実現
 デクセリアルズは5Gなど高速で大容量の情報処理をするICチップ向けに、ノイズ抑制機能と高い熱伝導率を両立した炭素繊維タイプのシート「EX10000K3シリーズ」を開発した。磁性粉を配合することでシートにノイズ抑制機能を付加。炭素繊維を垂直方向にそろえて配合することで熱伝導率を上げ、薄型化も実現した。

 日立化成は20年に台湾で、プリント配線板用高機能材料の新工場を稼働予定だ。プリント配線板用の積層材料は5G向けなどに旺盛な需要が見込まれる点に対応し、タイムリーに提供できる体制を整える。

 金属関連の業界にも通信機器分野での需要増加を期待する声がある。日立金属は独自の磁性材料技術を生かした小型で高性能なアイソレーターで、基地局向けの採用が増えそうだと予想。また同社は低温同時焼成セラミックス(LTCC)を材料に使う高集積回路基板でも、需要拡大が見込めるとしている。
デクセリアルズのノイズ抑制熱伝導シート

(文=宇田川智大、鈴木岳志、斉藤陽一、江上佑美子)

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