【直撃】名大総長が明かす、“地域”の岐阜大と統合する危機感と覚悟
法人統合へ基本合意
名古屋大学と岐阜大学が、東海国立大学機構を設立して法人統合することで基本合意しました。両大学の特徴や強みを生かして相互補完し、国際競争力強化と地域創生への貢献を目指します。日刊工業新聞では統合のシンボルとなる拠点を岐阜大に置く動きを掴み、報じました。また、基本合意の発表直前に松尾清一名大総長の単独インタビューを敢行しました。それら最新の情報を合わせて伝えます。
名古屋大学と岐阜大学は25日、東海国立大学機構を設立して法人統合することで基本合意したと発表した。設立時期は法改正で決まるため未定だが、2020年4月からの新入生受け入れを目指す。少子化社会を「縮小均衡で生き延びる発想は捨て」(松尾清一名大総長)、両大学の特徴や強みを生かして相互補完し、国際競争力強化と地域創生への貢献を目指す。
統合は同機構の傘下に両大学が入る「アンブレラ方式」。機構トップの選任は今後進める。大学連携で航空宇宙や炭素繊維、農学などの研究を強化、産業構造の変革につなげる。管理部門の統合で事務作業などを効率化するが、学部などは現行のままとする予定。
同機構に賛同するほかの大学も受け入れる方針だが、現時点で打診はないという。他地域では静岡大学と浜松医科大学、北見工業大学と小樽商科大学と帯広畜産大学、奈良教育大学と奈良女子大学がそれぞれ統合協議を行っている。名大と岐阜大は「フロンティアとして責任重大」(同)と強調する。
国立大学法人が複数大学を運営するには法改正が必要。文部科学省が法改正案を19年の国会に提出、早ければ6月に成立の見通し。
名古屋大学は2020年開設予定の糖鎖生命コア研究拠点を、名大と統合を目指している岐阜大学に設ける。名大も岐阜大も糖鎖研究は柱の一つだが、統合の一つのシンボルとして中心となる拠点は岐阜大に置くことにした。
20年の岐阜大との統合で設立する東海国立大学機構の大型研究拠点の一つとして開設する。糖鎖は細胞の表面に存在する分子で、免疫など細胞間の相互作用に重要な役割を持つとされるが、解明されていない機能も多い。名大は糖鎖生物学の研究で伝統があってノウハウを蓄積し、日本の要衝に位置付けられる。岐阜大は糖鎖研究では京都大学とのつながりが強い。糖鎖科学や糖鎖イメージング研究を軸に、糖鎖やたんぱく質、核酸を融合した生命鎖研究に注力している。
また愛知県にある基礎生物学研究所と分子科学研究所も糖鎖研究グループを持ち、連携しやすい。公設研究機関の知見を合わせて広角的に研究する。糖鎖機能の研究を発展させれば、病気の発症メカニズムの全貌解明や革新的医療につながる可能性がある。
東海国立大学機構は設立時に医療情報データ統合による革新的医療研究拠点も設ける。この拠点は両大学で構成、まず両大学の医学部付属病院のデータ統合を図る。その後関連病院にも広げて東海地域で連携し、地域医療への貢献を目指す。
このほかにも、両大学の強みとする研究分野で協力し合って伸ばすことで質的向上を図る。航空工学では設計やシミュレーションに強い名大と、部品加工分野に強い岐阜大で補完し合い、農学では基礎分野中心の名大と全般教育が得意な岐阜大で補完する。
名古屋大学は1法人で複数大学を運営するマルチキャンパス構想を掲げる。2020年4月に東海国立大学機構を設立、岐阜大学との経営統合を目指している。大規模と中堅の総合大学同士の統合で、少子化の中で生き残りをかける大学のモデルケースとして注目を集めている。統合のメリットをどう発揮していくのか、松尾清一総長に狙いを聞いた。
―岐阜大学との統合に向けた交渉の進捗(しんちょく)状況は。
「2018年度中の基本合意を目指す中でできるだけ早くという方向で進んでいる。機構設立に向けた基本合意書締結への合意形成や手続きも順調にいっている」
―1法人での複数大学運営には法改正が必要です。
「文部科学省の法改正検討会議に参考人として呼ばれて考えを話してきた。それらを反映した法改正案が19年の国会に提出される見込みで、ほぼ順調だ」
―経営統合を目指す理由は。
「日本は少子高齢化で医療福祉の経費増が見込まれる一方、教育予算は減っている。大学のプレゼンスが落ちている。高等教育機関が持続的に発展し、人類や社会に貢献するには今のままでは厳しいという危機感がある」
―岐阜大学と組む狙いは。
「名古屋と岐阜がある中京圏はモノづくり産業が集積し、発展してきた。第4次産業革命と言われる現在、同じままでは成長が難しい。名大は世界と競争し、岐阜大は地域貢献を目指す中で補完し合い、組織的、戦略的に目標に向かえば地域産業発展に貢献できる」
―人材育成でも統合のメリットは大きいです。
「英語教育や数理データサイエンス、専門領域をまたいだ研究、リベラルアーツなどに対応するには、個別の大学のリソースでは限界がある。各大学の特徴を組み合わせて強化すると共に、教育のやり方を変え、地域にも世界にも通じる人材を育成する必要がある」
―拠点の集約も必要になります。
「糖鎖科学は名大も岐阜大も研究しているが、核となる拠点は一つのシンボルとして岐阜大に置く。医療データの統合は両大学の付属病院同士で取り組んでから関連病院にも広げ、地域医療に貢献する。獣医学など片方にしかない分野、関連設備を相互利用で情報共有し、共同研究などを加速的に進めたい」
―プロトタイプの役割も求められます。
「様子見の大学が多いだろうが、新しい試みとして従来の大学のイメージを捨てる。名大はランク低下、岐阜大は名大に飲み込まれるという懸念を打破し、他大学が参考になる形を目指す」
(聞き手・市川哲寛)
2020年4月から新入生受け入れへ
名古屋大学と岐阜大学は25日、東海国立大学機構を設立して法人統合することで基本合意したと発表した。設立時期は法改正で決まるため未定だが、2020年4月からの新入生受け入れを目指す。少子化社会を「縮小均衡で生き延びる発想は捨て」(松尾清一名大総長)、両大学の特徴や強みを生かして相互補完し、国際競争力強化と地域創生への貢献を目指す。
統合は同機構の傘下に両大学が入る「アンブレラ方式」。機構トップの選任は今後進める。大学連携で航空宇宙や炭素繊維、農学などの研究を強化、産業構造の変革につなげる。管理部門の統合で事務作業などを効率化するが、学部などは現行のままとする予定。
同機構に賛同するほかの大学も受け入れる方針だが、現時点で打診はないという。他地域では静岡大学と浜松医科大学、北見工業大学と小樽商科大学と帯広畜産大学、奈良教育大学と奈良女子大学がそれぞれ統合協議を行っている。名大と岐阜大は「フロンティアとして責任重大」(同)と強調する。
国立大学法人が複数大学を運営するには法改正が必要。文部科学省が法改正案を19年の国会に提出、早ければ6月に成立の見通し。
日刊工業新聞2018年12月26日
糖鎖研究の拠点は岐阜大に
名古屋大学は2020年開設予定の糖鎖生命コア研究拠点を、名大と統合を目指している岐阜大学に設ける。名大も岐阜大も糖鎖研究は柱の一つだが、統合の一つのシンボルとして中心となる拠点は岐阜大に置くことにした。
20年の岐阜大との統合で設立する東海国立大学機構の大型研究拠点の一つとして開設する。糖鎖は細胞の表面に存在する分子で、免疫など細胞間の相互作用に重要な役割を持つとされるが、解明されていない機能も多い。名大は糖鎖生物学の研究で伝統があってノウハウを蓄積し、日本の要衝に位置付けられる。岐阜大は糖鎖研究では京都大学とのつながりが強い。糖鎖科学や糖鎖イメージング研究を軸に、糖鎖やたんぱく質、核酸を融合した生命鎖研究に注力している。
また愛知県にある基礎生物学研究所と分子科学研究所も糖鎖研究グループを持ち、連携しやすい。公設研究機関の知見を合わせて広角的に研究する。糖鎖機能の研究を発展させれば、病気の発症メカニズムの全貌解明や革新的医療につながる可能性がある。
東海国立大学機構は設立時に医療情報データ統合による革新的医療研究拠点も設ける。この拠点は両大学で構成、まず両大学の医学部付属病院のデータ統合を図る。その後関連病院にも広げて東海地域で連携し、地域医療への貢献を目指す。
このほかにも、両大学の強みとする研究分野で協力し合って伸ばすことで質的向上を図る。航空工学では設計やシミュレーションに強い名大と、部品加工分野に強い岐阜大で補完し合い、農学では基礎分野中心の名大と全般教育が得意な岐阜大で補完する。
日刊工業新聞2018年12月24日
「従来の大学のイメージを捨てる」
名古屋大学は1法人で複数大学を運営するマルチキャンパス構想を掲げる。2020年4月に東海国立大学機構を設立、岐阜大学との経営統合を目指している。大規模と中堅の総合大学同士の統合で、少子化の中で生き残りをかける大学のモデルケースとして注目を集めている。統合のメリットをどう発揮していくのか、松尾清一総長に狙いを聞いた。
―岐阜大学との統合に向けた交渉の進捗(しんちょく)状況は。
「2018年度中の基本合意を目指す中でできるだけ早くという方向で進んでいる。機構設立に向けた基本合意書締結への合意形成や手続きも順調にいっている」
―1法人での複数大学運営には法改正が必要です。
「文部科学省の法改正検討会議に参考人として呼ばれて考えを話してきた。それらを反映した法改正案が19年の国会に提出される見込みで、ほぼ順調だ」
―経営統合を目指す理由は。
「日本は少子高齢化で医療福祉の経費増が見込まれる一方、教育予算は減っている。大学のプレゼンスが落ちている。高等教育機関が持続的に発展し、人類や社会に貢献するには今のままでは厳しいという危機感がある」
―岐阜大学と組む狙いは。
「名古屋と岐阜がある中京圏はモノづくり産業が集積し、発展してきた。第4次産業革命と言われる現在、同じままでは成長が難しい。名大は世界と競争し、岐阜大は地域貢献を目指す中で補完し合い、組織的、戦略的に目標に向かえば地域産業発展に貢献できる」
―人材育成でも統合のメリットは大きいです。
「英語教育や数理データサイエンス、専門領域をまたいだ研究、リベラルアーツなどに対応するには、個別の大学のリソースでは限界がある。各大学の特徴を組み合わせて強化すると共に、教育のやり方を変え、地域にも世界にも通じる人材を育成する必要がある」
―拠点の集約も必要になります。
「糖鎖科学は名大も岐阜大も研究しているが、核となる拠点は一つのシンボルとして岐阜大に置く。医療データの統合は両大学の付属病院同士で取り組んでから関連病院にも広げ、地域医療に貢献する。獣医学など片方にしかない分野、関連設備を相互利用で情報共有し、共同研究などを加速的に進めたい」
―プロトタイプの役割も求められます。
「様子見の大学が多いだろうが、新しい試みとして従来の大学のイメージを捨てる。名大はランク低下、岐阜大は名大に飲み込まれるという懸念を打破し、他大学が参考になる形を目指す」
(聞き手・市川哲寛)
日刊工業新聞2018年12月25日