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日産がサプライヤー幹部に事情説明、「平身低頭で謝罪」

日産がサプライヤー幹部に事情説明、「平身低頭で謝罪」

昨年、三菱自動車の工場に視察したゴーン氏

 「ゴーン氏が去って悲しがる日本のサプライヤーはいないと思う」(部品メーカー幹部)―。日産自動車のカルロス・ゴーン容疑者が金融商品取引法(金商法)違反の疑いで逮捕され、会長を解任された。かつての威光を封じ込まれたゴーン容疑者に対する負のマグマが日産社内外で噴出している。一方、カリスマのくびきが外れたことは、新たな日産を創造する契機でもある。日産は危機をバネにできるのか―。

 22日夕刻。ゴーン容疑者の会長解任を諮る日産の取締役会が始まったのとほぼ同時刻。同社本社と同じ横浜市にあるホテルに日産のサプライヤー幹部が集まっていた。日産のモノづくり全般を統括する山内康裕チーフ・コンペティティブ・オフィサー(CCO)らが、今回の事件などについて説明した。

 山内CCOは購買部門が長く、「コストカッター」の異名をとるゴーン容疑者に代わりサプライヤーと直接対峙(たいじ)。厳しい要求を出す一方で、いかにウィン―ウィンの関係を維持するかに腐心してきた。「山内CCOは平身低頭で謝罪していた。悔しさはいかばかりか―」と部品サプライヤー幹部はおもんぱかった。

 長期にわたるゴーン容疑者への権力の一極集中の弊害は、事業運営にも影を落とす。日産は9月、車載情報機器に米グーグルの基本ソフト(OS)「アンドロイド」を採用すると発表した。「ゴーン氏が急に言い出して決まった。『リナックス』OSを使う方針だった日産側は非常に困惑している」と業界関係者は明かす。

 三菱自動車のサプライヤーは「(日産、仏ルノー、三菱自の)3社連合の解消は困る」と断言する。自動運転や電気自動車(EV)の本格普及を控えて投資負担が重くなる中、規模は自動車メーカーの競争力に直結する。日産、ルノーより販売規模の小さい三菱自は特に危機感が強い。

 22日には世耕弘成経済産業相が、フランスのルメール経済・財務相と現地で会談し「連合の継続を強く支持する」との共同声明を発表した。一方、日産が後任会長についてルノーの指名を拒否すると伝えていたことが明らかになった。ゴーン容疑者という扇の要を失って揺らぐ3社連合をどう維持するか、主導権争いが激しくなる。

 「何とか良い方向に持っていき、良い日産にしてきたい」―。22日のホテルでの会合で山内CCOはこう話したという。あるサプライヤー幹部は「裏切られた思いで納得できない部分もあるが、日産と共に頑張っていくしかない」と語る。

 突然のカリスマ退場という危機をチャンスに変え、事業運営の歪みを正し、3社連合の関係を安定させられるか。日産の経営は大きな岐路に立った。
(文=後藤信之、下氏香菜子、山岸渉、渡辺光太)
日刊工業新聞2018年11月26日
中西孝樹
中西孝樹 Nakanishi Takaki ナカニシ自動車産業リサーチ 代表
サプライヤーの困惑も大きいだろう。ルノー日産の提携関係は維持していかなければならないが、現状維持はもはや困難かも。展開次第では敵対の構図も起こりかねない。結果として、内紛が長引けばこのアライアンスそのものの弱体化がおこる。日産は会社とそのステークホルダー(サプライヤー、株主)を守ろうと必死だが、肝心なユーザーを守が目線が欠けている印象が強い。

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