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揺れる東芝「第三者委員会」調査の“主役”が会見

上田委員長「会計処理の先送りを違法だと思っていない人がいた」
揺れる東芝「第三者委員会」調査の“主役”が会見

会見する上田委員長

 東芝の不適切会計を調査してきた第三者委員会(上田広一委員長=元東京高検検事長)は21日、調査報告書の全文を公表し、都内で会見した。委員4人全員が出席し、上田委員長は調査報告書に記載した”当期利益至上主義“との表現について「『会計期間に利益目標を必ず達成しなければ』という考え方が企業風土としてあった」と述べた。辞任を表明した田中久雄社長が同日の会見で、自身が不適切な会計処理の指示を否定した件についてのコメントは避けた。
 
 松井秀樹委員(弁護士)は「チャレンジ」と称する過大な収益改善目標が社内カンパニーに指示された件について「厳しい経済環境の中で『何とか利益を上げなければ』とプレッシャーがかかっていた」と背景を説いた。田中社長への聞き取り内容の確認を求められた上田委員長は「個々のヒアリング内容については申し上げられない」と述べた。

 社内で法律順守の意識が欠けていた点も指摘。上田委員長は「会計処理の先送りを違法だと思っていない人がいた」と明かした。報告書で不正会計と表現しなかった理由については「不正とみなせる内容もあるが、全体的に表現すると不適切になる」と述べた。調査期間や内容が限定的だったのではとの指摘には「依頼された事項について全力で調査した」と返した。
 
 【歴代3社長の関与を認定】
 報告書では田中久雄社長のほか、前社長の佐々木則夫副会長、前々社長の西田厚聰相談役の歴代3社長の関与を認め、「不適切な会計処理については、経営判断として行われた」と指摘した。

 インフラやテレビ、パソコンなどの主要分野で不適切会計が発覚した。インフラでは、工事進行基準と呼ぶ会計処理で損失を先送りしていた。テレビでも会計処理の先送りが認められた。パソコンでは外部の製造委託先との部品取引などで、不要に利益をかさ上げしていた。

 不適切会計が起きた原因について報告書は、短期的な利益至上主義と目標必達のプレッシャーを要因として挙げた。「社長月例」と呼ぶ会議では、社長が各カンパニーのトップに対し、四半期ごとの利益最大化を意図した「チャレンジ」と称する収益改善目標を示し、達成を強く迫ったという。

 特に佐々木副会長が社長を務めた11年度から12年度にかけて、各カンパニーのトップは過大な目標設定を求められ、「プレッシャーを強く受けていた」と指摘。その結果「不適切な会計処理を行わざるを得ない状況に追い込まれた」とした。
 こうした不正を是正するための内部統制機能も働かなかった。例えばパソコン事業の問題について、監査委員会の委員の一人が、他の委員に懸念を再三指摘したにもかかわらず、監査委員会で審議したり、業務執行者側に問題提起されることもなかったという。

 報告書は再発防止に向けた提言も行った。経営トップらの意識改革や、「チャレンジ」廃止などで、不適切会計を引き起こした直接的な原因を排除したうえで、各カンパニー内での独立した内部監査部門の設置や、社外取締役の増員を提案した。

 東芝は過去の決算を訂正し、8月中に14年度連結決算を公表する予定。その後、9月末までに臨時株主総会を開き、新たな経営体制の承認を得る考え。

 《東芝の不適切会計第三者委報告書要旨》
 【全体】
 2008年4月―14年12月までの税引き前損益の累計修正額は累計1518億円。東芝は自社調査での判明分を含めると、修正額は1562億円になるとした。
 【インフラ】
 スマートメーター(通信機能付き電力量計)などで損失発生を見込んだが計上しなかった。田中久雄社長らに損失先送りの意図があったと思われる。
 【テレビ】
 遅くとも08年ごろより費用の先送りなどにより利益のかさ上げが行われた。当時社長だった佐々木則夫副会長と田中社長もかさ上げを認識、佐々木副会長はグループが赤字の状態で先送りの解消をすべきでないと発言していた。
 【パソコン】
 経営トップを含めた組織的関与の中、意図的に部品取引で利益をかさ上げした。当時社長の西田厚聰相談役や佐々木副会長は高い収益目標を課して必達を求め、担当部門が実行せざるを得ない状況に追い込んだ。
 【半導体】
 在庫の損失処理が適切に行われていなかった。佐々木副会長、田中社長は利益かさ上げの事実を認識し、かさ上げを意図した疑いがある。
 【原因】
 経営トップの関与の下、不適切な会計処理が多くの部門で組織的に継続された。当期利益至上主義の下、過大な目標を達成するために多額な不適切会計が繰り返された。会計監査人に対する事実隠蔽(いんぺい)もあった。上司の意向に逆らえない企業風土が存在していた。
 【再発防止策】
 不適切会計に関与、認識していた取締役、執行役には、人事上の措置を適切に行うことが必要。グループ全体を対象とする内部監査部門を新設。社外取締役を監査委員長にする

日刊工業新聞2015年07月22日 3面
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
今回の問題が最初に発覚した4月ごろ、田中久雄社長らはここまで問題が大きくなるとは思っていなかった。東芝社内からも「第三者委員会のここまでやるとは・・」という声が多い。

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