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地域課題を解決するイノベーションを地元学生の手で…文科省が支援事業

住民向けの自動運転車やIoTによる防災など
 文部科学省は2019年度から、地域の大学・高等専門学校(高専)・高校の若者が参画し、地元の課題を解決する科学技術・社会イノベーションの支援事業を始める。各プロジェクトの支援期間は約10年間を予定、長期にわたって取り組む。

 交通手段に困っている住民向けの自動運転車、IoT(モノのインターネット)による防災などの実現を目指す。工学系だけでなく人文・社会科学系の学生も参画し、市町村レベルの地方創生につなげる。

 21年度からの第6期科学技術基本計画に向けた試行とし、19年度予算概算要求に3億円強を盛り込む。

 新事業の名称は「科学技術イノベーションによる地域社会課題解決」(INSPIRE)。未来社会のニーズに基づくイノベーションの地域版の位置付け。初年度は1億円規模で1件、数千万円規模で数件を採択する計画だ。

 文科省の地域連携事業は従来、県や政令指定都市を対象とし、大学の先端技術シーズを中心に、地場優良企業を集めて行ってきた。対象分野も理工系が中心だった。

 新事業は、対象をより広くした文理融合の“社会イノベーション”を後押しする。SDGs(持続可能な開発目標)に関する自治体や大学の取り組みとも関連付けられる。

 制度や倫理、心理など人文・社会科学の大学若手研究者や学部生、高専生、工業高校やスーパーサイエンスハイスクールの生徒が参画。自然災害の被災地支援や社会的起業(社会課題解決を重視する起業)に関心ある若者を主役に据え、成果の普及や定着(社会実装)を目指す。地域では少子高齢化などの課題が深刻で、イノベーション効果がより高いモデルが期待される。

 
日刊工業新聞2018年8月23日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
なぜこれまでなかったのか、と新事業の構想を見て不思議に思った案件だ。イノベーションは科学技術を核にすることが多く、文科省事業では「科技重視」から離れられない。一方で地域の課題解決を、学生の産学連携教育として手がける大学は少なくない。学生の数カ月の活動で「解決法を考えました。発表します。おしまい」でなく、実際にその解決法を実証し、地域に根を下ろした活動となることが理想だ。10年という事業の長期設定は、その期待の現れだ。高校生で議論の端に加わった人材も、10年後には自治体やNPO、ベンチャーなどでの、強力な地域のリーダーになっているかもしれない。

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