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【特別インタビュー】未来学者・川口盛之助氏に聞く(5)ブランディング

製品の価値づくりではまだ2部リーグ/東京にスイートルームが足りない/MICEビジネスに勝機あり

 ーその辺りは蓄積のある欧州が強いと。

 「欧州は産業革命を経て一通りやってきた。でも産業革命と言っていたのは機械のところまで。電気に行ったのは第2次産業革命でアメリカやドイツが仕切っていた。前にも言ったが、医薬で出遅れているのが日本の問題。技術屋さんというものの位置付けがここに現れている。言い方は悪いが、価値というものの全体を考えた場合、日本はまだ2部リーグにすぎない」

 —ブランディングでは確かにまだ課題があり、それが収益性の低さの一因ともなっています。

 「一方で日本人気を後押ししているのがサブカルチャー。ハイテクが落ちてきたのと同時にサブカルチャーが上がってきた。欧州では1週間に2回はどこかで日本のサブカルのイベントが開催されている。日本への観光客も増えているし、2000年くらいから食品の輸出がぐんぐん上がってきた。日本のアニメを見て育った人たちが、今度は日本食や日本のハイカルチャーを受け入れる年齢になってきた。20年くらい前から仕込んできた海外の子供達を洗脳する装置がサブカルだったというわけ」

 「インバウンド(訪日外国人旅行者)が1000万人超えたといっても世界で30位程度の3部リーグだ。フランスや中国などトップクラスの国は5000万人とか8000万人とか来る。ユネスコの無形遺産、有形遺産登録品も増えているし、本当は日本に6000万人ぐらい来ても不思議ではない。それだけの魅力に満ちあふれた国なんだけれども、これまでモノで稼いでいたので、そのカードを出さなくても良かった」

 「モノが苦しくなってどうするというときに、実は魅力に満ちあふれていてということで、和紙とか和食とか立て続けに世界遺産に登録されるようになってきた。単にこうした文化がエキゾチックというだけではなく、立派な文明文化だということを認知できる評価委員の中に、小さいころ『セーラームーン』で育った人がいたりする。20年かけてきたアニメ文化の「仕込み」がようやく花咲いてきたわけだ」

 「今年2月に日本は初めてインバウンドがアウトバウンド(日本からの海外旅行者)を抜いた。3兆円くらいマイナスだったが、ついに水面から上に出た。実はこの分野では明治維新のようなことが起こっていて、3兆円くらい稼げるとも言われている」

 ーいわばモノを輸出しているようなものですよね。

 「ツーリズムは隠れた輸出と言われていて、ドルを落としてくれる。ありがたい話だ」

 ー2020年の東京オリンピックもありますし、この勢いが今後弱まることはあまりないのではと。

 「円安が追い風にはなっているけれど、基本的には日本の認知度が上がっている。見るべきものがいっぱいあるんだということを世界が気付き始めている。日本になぜ来たくなるのというのを分析したことがあるが、正直で秩序があって愚直で、でも意外と寛容でとか、人の良さや普通の人の民度の高さが大きな魅力になっている」

 ーあと安全とか。

 「そう、社会環境。安全と清潔、綺麗というのはみんなびっくりする、ゴミが落ちていない。それも行政の人が綺麗にしているのではなくて、ゴミ箱がないのになぜ綺麗なんだ。みな家に持って帰ってゴミを出さないというところに、世界の観光客は驚く。その辺がやっと認められたストックの時代に入ったんだという気がする」

 ー政府はクールジャパン機構をつくって支援していますが。

 「やってもやらなくてもあまり変わらない、日本の魅力自体がすごいので。ほっておいてもインバウンドは増えるが、問題は人を宿泊させるキャパが足りないこと。東京オリンピックでも東京都内のホテルのスイートルームが足りない。それが大きなイベントをやる場合のボトルネックになっている。世界でもずば抜けて巨大で洗練された東京というシステムを我々は作り上げた。この虎の子の資産を金に換えるMICE(会議・研修、招待旅行、国際会議、展示会)ビジネスは今後のわが国にとって大事になる」
(おわり)

<プロフィール>
 川口盛之助(かわぐち・もりのすけ) 
 1984年慶大工卒、米イリノイ大理学部修士修了。日立製作所を経てアーサー・D・リトルジャパンでアソシエートディレクター。13年株式会社盛之助(東京都中央区)を設立し社長。日経BP未来研究所アドバイザー。代表的著作の『オタクで女の子な国のモノづくり』で「日経BizTech図書賞」を受賞。同書は英語、韓国語、中国語、タイ語にも翻訳され、台湾と韓国では政府の産業育成の参考書としても活用される。兵庫県出身、54歳。
ニュースイッチオリジナル
藤元正
藤元正 Fujimoto Tadashi
インタビューもいよいよ最終回。川口さんには幅広い分野について、さまざまな角度からじっくり語っていただきました。インタビューを通して感じたのは、日本企業は「優れた技術を開発し、いいモノを作れば売れるはず」という罠に陥っていないかという点。どう高収益のビジネスにつなげていくか、ブランドを確立していくかという視点が弱かったように思います。日本に世界の目が集まっている今こそ、ブランドづくりの好機かもしれません。

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