LINEの成長戦略総ざらい、AI・金融・アジア開拓も

「積み上げてきたものを新たにリデザインする」(出沢LINE社長)

 LINEは金融事業と人工知能(AI)を軸に新たな成長軌道を描く。2018年度に300億円を投資し、送金・決済サービスや独自のAIエンジンの開発を加速する。キャッシュレス社会やコネクテッドカー(つながる車)の時代に向け新サービスを展開する。単なるスマートフォン向けアプリケーション(応用ソフト)の「LINE」から脱却し、「生活インフラ」としての役割を果たそうとしている。

スマホ決済の覇者へ


 「LINEの設立から約7年。積み上げてきたものを新たにデザインする時期に入った」―。LINEの出沢剛社長は、事業方針「ReDesign(リデザイン)」についてこう説明する。「LINE」は国内人口の約半数に当たる7500万人が利用する。その巨大な顧客基盤を強みとするLINEがメスを入れるのは、金融事業だ。

 ネットショッピングや実店舗でスマホ決済ができるサービス「LINEペイ」。決済事業を手がける子会社LINEpay(東京都新宿区)の長福久弘取締役は「決済に革命を起こす」と宣言し、LINEペイで支払える店舗を18年内に100万店舗に拡大する目標を掲げる。

 スマホ決済は、楽天の「楽天ペイ」が先行するほか、ヤフーやNTTドコモも参入し、覇権争いに向けた戦いは厳しさを増す。その中でLINEはJCBが提供する電子マネー「QUICPay(クイックペイ)」と提携し、国内約72万カ所のクイックペイ加盟店での支払いを可能とした。また従来はスマホでQRコードを読み取る形での決済方法だったが、18年内にスマホをかざすだけで決済できるようにするなど利便性を高める。

 中小規模の事業者を狙い、同サービスの導入ハードルを下げる施策も始める。店舗側のスマホに専用アプリをダウンロードするだけでLINEペイでの決済に対応する「店舗用アプリ」を提供したほか、8月から3年間、アプリを使って決済する場合に決済手数料を無料にする。「ユーザーが不便なまま置き去りにされている」(出沢社長)国内の決済事業で、スピーディーにスマホ決済のインフラを構築する構えだ。

 AI事業では、独自の音声認識AI「Clova(クローバ)」を、トヨタ自動車が今冬に発売する予定の車種と連携させる。舛田淳取締役は「(車内は)音声認識が最も生きる環境」と見ている。ドライブ中に音声で命令するだけで、自宅の照明を消灯したり、LINEメッセージの送受信などが可能となる。今後はトヨタの新型車で順次クローバを利用できるようにする。

 LINEは「LINE」の顧客基盤を活用し、決済や自動車分野など新事業でスタートダッシュを切った。この1年でどう成果を上げられるかが、今後のLINEの成長を左右しそうだ。

アジア覇者へ現地密着


 LINEのスマートフォン向けアプリケーション(応用ソフト)「LINE」は、利用者の過半数がアジアを中心とした海外ユーザーだ。

 同社が海外展開で重視するのは「ハイパーローカリゼーション」。日本のサービスを横展開するのではなく、現地の人の生活や文化に寄り添ったサービスを提供する戦略を掲げる。

 「アジアでエンジニア拠点の拡充に力を注ぐ」―。LINEの出沢剛社長はこう宣言する。LINEは現在、日本や韓国など世界28カ所に拠点を置く。タイやインドネシアなどにも拡大し、開発力を強化している。日本と同様に海外でもスマホアプリ「LINE」は、生活インフラとして姿を変えつつある。
 
 LINEが注視するのは台湾、タイ、インドネシア市場。中でも台湾の「LINE」普及率は人口の89%と、3カ国で最も高い。台湾における金融事業では「LINEペイ」が好調で現在290万人以上のユーザーが利用。「台湾における決済のリーダーとなった」(関係者)。「LINE」上でタクシーを配車できるようにしたほか、動画配信コンテンツ「LINE TV」も展開するなど、多様なサービスを提供している。

 LINEが日本に次ぐ市場として注視するのは、タイだ。タイ人は参加交流型サイト(SNS)好きで知られ、『LINE』ユーザー数は4200万人と世界で2番目に多い。

 タイは給与を現金で支払うほか、プリペイド(前払い)型の携帯電話が広く流通するなど、現金が生活に根付いている。そこでLINEは、コンビニなどに置かれたプリペイド型携帯電話などのチャージに使う情報端末から、現金でLINEスタンプを購入できるサービスを始めた。現在約17万の端末で利用できる。さらにタイでは、バイクを使った独自サービス「LINE MAN」も人気を集める。フードデリバリーや郵便物の配送など、多様なサービスを受け付ける。バイクがよく利用されるタイに即したサービスだ。

 LINEはタイや台湾、若年層を中心に利用されるインドネシアの3カ国・地域の開拓に力を注ぎ、海外攻略を進める。

 しかし3カ国・地域合計の「LINE」月間利用者数は、2017年前半をピークに徐々に減少に転じている。「今後も継続する可能性がある」(関係者)と危機感を募らせる。同社は成熟した市場で、利用者に受け入れられる高収益なサービスを模索し、事業を変革する。

台湾事業の責任者、ロジャー・チェン氏に聞く


 ―台湾市場が好調な理由は。
 「2013年にサービスを始めてからスピーディーに成長した。台湾人は自分の気持ちをチャットのような短文でやりとりすることを好む傾向があるからだろう。現地仕様のLINEスタンプも人気が高い。『LINE TV』では、ミュージックビデオや米プロバスケットボール協会(NBA)の試合が視聴できるなどコンテンツを充実している」

 ―ニュースを配信する「LINE today(トゥデイ)」も好評です。
 「日本ではLINEニュースとして提供しているが、LINEトゥデイは台湾でゼロから構築した。ニュース配信だけではなく、映画のスケジュール確認からチケット予約までを可能にした」

 ―2月に地震で大きな被害が出た際にLINEトゥデイを活用しました。
 「地震の2分後にはLINEトゥデイで配信した。おそらく政府の公式発表よりも早いタイミングで多くの人に情報提供ができた。被災者への義援金受け付けページを設け、LINEペイを使ってスマホから送金できるようにした」

 ―「LINE」は広く利用される一方、悪用の心配もあります。
 「4月から『LINE』を選挙活動に活用している。候補者にLINEアカウントを提供し、候補者がユーザーに直接施策を説明できる環境を整備した。背景には、候補者を偽ったフェイクアカウントを作ってユーザーを欺き、個人情報を吸い上げる問題が報告されたからだ。『LINE』は人口の9割が利用しており影響力が大きく、社会的責任も果たさなければならないと感じている」

ロジャー・チェン氏

タイ法人責任者、アリヤ・パノムヨン氏に聞く


 ―タイではスマートフォン利用者の95%が「LINE」を利用しています。
 「13年のサービス開始当初はメッセンジャーアプリとして人気を集めたが、タイ人の好みに合ったLINEスタンプの提供に合わせて、急速に利用者が拡大した。特に動画配信コンテンツ『LINE TV』や『LINE MAN』が人気だ。すでに『LINE』は、現地のユーザーにとって生活の一部になっている」

 ―今後、タイで強化したい事業は。
 「『LINE』のモバイル決済サービス『LINE pay(ペイ)』を普及させたい。タイは現金至上主義だが、ユーザーの財布の一部を『LINE』に変えたいと考えている。ユーザーの生活をより便利にすることが目標だ」

 ―どう取り組みますか。
 「他企業との業務提携が必要となる。我々は交通料金を支払える電子決済カード『Rabbit(ラビット)』を提供するBSSや、タイで通信キャリア最大手のAISと提携した。これにより、『LINEペイ』を使って通信料金や公共料金、電車の運賃を支払えるようにした。ラビットは日本でいうとJR東日本の交通系電子マネー『Suica(スイカ)』のようなサービスで、タイでは広く普及している。LINEペイを使った決済の機会や1人当たりの決済額を増やして、成長を図る」

―今後の戦略は。

「タイ文化に即した『LINE MAN』のような、100%現地仕様のサービスをいかに生み出せるかが重要となる。このため新事業の開発やサービス展開には積極的に投資する。新サービスを市場投入して成長軌道に乗せ、新たな収益源を生み出す」

アリヤ・パノムヨン氏

日刊工業新聞2018年7月3、4、5日

日刊工業新聞 記者

日刊工業新聞 記者
07月05日
この記事のファシリテーター

モバイル決済をめぐっては、『LINEペイ』のほか、楽天の『楽天ペイ』、メルカリの『メルペイ』などが参戦。どのサービスがどういった戦略で覇権を握るのでしょうか。一方、キャッシュレスをめぐっては「プライバシーとの両立」が議論されています。現金では確保されていた個人の購買・行動履歴といった個人情報を各社がどう活用していくのかが気になります。
(日刊工業新聞社・大城蕗子)

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