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地味にスゴイ!産学連携の知財契約

文科省がモデル確立
 文部科学省は産学連携コンソーシアム(共同事業体)の共同研究で、特許など知的財産の取り扱いを定める契約の5類型を確立した。考え方として九つの要素を挙げ、それらを使って類型を選ぶ仕組みだ。多数の機関が参加し事業化を目指す大型プロジェクトが増える中、専門家不足の小規模・地方大学などでも、適切な契約締結が可能になる。1大学1企業以外の契約モデルを文科省が示したのは初めて。

 コンソーシアム型研究で生まれる知財の成果をある機関に集約し、その権利を事業化につなげる考え方と類型は、例えば次のようになる。「研究テーマが基礎的で学術探索の初期であれば、大学に集約」「企業の競争領域に関連する技術で、企業の知見・技術が大きい場合は、その企業に集約」「コンソーシアム解散後の長期的研究が見込まれるなら、一般社団法人など第三者機関を設立し、そこに集約しライセンスする」などだ。

 実際は考え方の要素を組み合わせて5類型のどれかを選んだり、さらに個別事情を勘案したりして、共同研究前の契約を柔軟にすることを文科省は推奨している。いずれも実用化の努力とともに、大学の将来の研究と学術的な公表を可能にすることが前提だ。

 すでに産学1対1の個別契約の10類型を構築しており、あわせて「さくらツール」の愛称でまとめた。大学のほか公的研究機関やベンチャーなど、知財の専門家が十分にいない機関で活用が見込まれる。

 近年は文科省の「産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム」(OPERA)など、コンソーシアム型の大型事業が増えており、成果の扱いが焦点となっていた。
 

さくらツールとは


Q 産学共同研究の権利問題は、国立大学法人化の少し後に注目されたのでは?

A 共同研究で成果が出た場合の知財の扱いは、研究開始前の契約で取り決める。各大学・企業の知財専門家が、その研究の特性に応じて柔軟な契約をするのが理想だ。しかし容易でないため、法人化後も、以前に文科省が定めた「共同発明は共同出願が原則」のままとする大学が少なくなかった。

Q 近年、再び注目を集めた理由は。

A 米国の大学と比べて日本の大学特許は、大企業との共同出願が多いことがわかった。ビジネス規模が小さくて大企業が実用化しない“死蔵特許”となりがちだ。実用化意欲のあるベンチャーなどへライセンスするには、共同出願でない方がいい。契約時から事業化を考慮すべきだとなった。

Q さくらツールを使うと、多様な契約モデルが可能になるというわけだね。

A 先に1大学と1企業での、そして今回は複数の大学と企業が入ってのモデルを整理している。「さくら」との愛称には、日本の大学・産業社会に合ったものを―との意味が込められているよ。
日刊工業新聞2018年6月14日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
地味だが関係者間の関心が高いという点で、知財は産学連携の中で独特の位置を占めている。国立大学法人化から14年、当時の知財契約の基本的な考え方を知る専門家がどの大学でも去り、知財戦略に長けた大企業に押され気味だと耳にしていた。文科省プログラムでいうと、COIは中心が1大学なので比較的、もめにくいが、今後は複雑な連携協力が増えてくる。このツールを活用しながら、どのステークホルダーも納得の契約ができることを祈りたい。

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