“使い勝手のいい寄付金”獲得へ、大学が個性競う

大学経営への活用広がる

 国からの運営費交付金が減らされる中、国立大学が財務基盤を強化するため、寄付金集めに力を入れる。筑波大学や千葉大学は教職員・学生の地域連携で新企画を打ち出す。東京大学と東京工業大学は創業者寄付などで実績を上げ、大規模な基金構築を進める。「遺贈など大型案件の機会に気を配りつつ、卒業生らから少額を広く集める」という共通方針の上に、どんな工夫を重ねるかが大学の個性となっている。

 全国の国立大への寄付金額は、16年度で個人から340億円、法人から710億円(文部科学省調査)。国からの運営費交付金の約1割という規模だ。

 ただし、個人からの寄付は、大口の寄付の有無で振れ幅は大きい。16年度は、名古屋大学と名古屋工業大学に巨額の寄付があった関係で跳ね上がった。

 例年だと個人の寄付は120億円程度だ。一方、企業寄付は全額損金扱いで優遇されるため、医学部・病院向けを中心に、毎年度安定している。

 寄付は企業からの共同研究費などと異なり、見返りを求めないもので大きく3種類がある。教員個人が比較的、自由に使える「奨学寄付金」(研究助成)、建物建設など「使途特定のもの」、奨学金や若手研究者支援などニーズに合わせて使える「使途特定でないもの」だ。

 どの大学も狙っているのは、運営費交付金減を補える使い勝手のいい「使途特定でない寄付」だ。基金として蓄え、国債など元本保証の運用に回すケースもある。
           


千葉大、病院・環境活動で貢献


 総合大学の中でも地域を重視するタイプの大学にとって、医学部と大学病院の存在は、寄付集めの点でも重要だ。千葉大では、年約13億円の寄付の多くは、研究者個人が比較的自由に使える「奨学寄付金」だ。30年以上の歴史がある同大の臨床医学の研究助成会には、1口50万円で地元企業約50社から寄付がある。

 また同大は、環境の国際標準化機構(ISO)の学生委員会と、京葉銀行の産学連携プロジェクトも進む。同銀自身の企業の社会的責任(CSR)や、顧客中小企業の環境活動を支援し、寄付につなげている。

 同大で資金調達などを担当する「ファンドレイザー」の犬飼啓吾学長特命補佐は、「社会貢献という大学の使命を意識しつつ、世の中の動きからどんな提案ができるのか。一時的でなく継続的な寄付に向けて全学で考える必要がある」と説明する。専門家を多く抱える余裕はないことから、教職員の協力を重視し、寄付の増加に向け学内研修を重ねている。
千葉大と京葉銀行のプロジェクトメンバーら(千葉大提供)

筑波大、学長・職員が協力しアピール


 筑波大では事業開発推進室の職員が、学外への露出度の高い永田恭介学長と協力しながら寄付集めを行っている。学長と地元企業社長ら100人以上が参加する「学長を囲む会」を年4回開催。学長自らのアピールで、1億5000万円相当の現物寄付によるグラウンドの整備や、4年間で2000万円の留学生向け奨学金を決めている。

 また、大学ロゴの付いた大学グッズの販売は一般的には販売会社に委託し、売上高の3%程度を手数料として大学が得る。これに対し、同大では輸入販売企業から寄付の意向を取り付け、連携する海外大学ネットワークの活用も含めて10数%の手数料で契約している。

 具体的には、卒業生が社長のカクヤス(東京都北区)のボルドーワイン、地元のサザコーヒー(茨城県ひたちなか市)のブラジルコーヒーなどだ。

 寄付とは異なるものの、事業開発推進室では紳士服販売チェーン店やクレジットカード会社との提携による手数料ビジネスも手がける。

 「近隣飲食店でのカード利用でビール1杯無料など、我々が約200店舗でサービスを取り付けた。学内周知の活動も自ら展開している」(山田哲也同室室長)。昔ながらの公務員型とは異なる職員の積極的な活動が成果をもたらしている。

東工大、大口案件で国際化推進


 東工大は2018年2月、同窓会会長も務めたぐるなび創業者、滝久雄氏の夫妻から30億円を寄付されたと発表。これを基に、建築家・隈研吾氏のデザインによる国際交流施設を20年に設置する計画だ。滝会長は「(若者の国際化という)自分が最も大切に思うテーマで資金を出すのは喜びだ」と話している。同大は3月に世界トップレベルの研究・教育機関を目指す国の「指定国立大学」制度で指定を受けており、その一環として「東京工業大学基金」を100億円にすると公表している。

東大、他大に先駆け基金設立


 他大学に先駆けて、国立大学法人化の04年度に基金を設立したのが東大だ。累計受け入れ額は約400億円、残高は約90億円だ。大口の寄付がなくても年20億―30億円を集めている。ファンドレイザーを2年前に15人に増やし、日本で有数の規模で活動している。
              

(文=山本佳世子)

ファンドレイザーはAIで代替できない最後の職


●ジャパン・トレジャー・サミット代表理事(三菱総合研究所理事長)小宮山宏氏

 05年度に東大総長に就任し、寄付活動を本格化した。アドバンテスト創業者とイトーヨーカ堂創業者からそれぞれ、50億円程度の寄付を受け、施設を建設した。余裕ある資産は寄付者の自己実現を通して、社会に役立てられることになる。

 寄付集めの成否を決めるのはファンドレイザーだ。大学のビジョンを学長と同等の情熱で伝えるとともに、寄付者の友人となって思いを聞き、節税の相談に乗る。人工知能(AI)で代替できない最後の職だろう。

 米国の私立大で世界トップクラスとなると基金が3兆―4兆円。4%での運用として利益が年1600億円。ファンドレイザーは700人と聞いた。

 日本で同レベルは無理としても、ファンドレイザーを増やせば、人件費を大幅に上回る寄付が獲得できるはずだ。中小規模の大学は共同で、寄付集めや基金運用の人材を抱えるのがよいのではないか。(談)

日刊工業新聞2018年5月28日

山本 佳世子

山本 佳世子
05月29日
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政府は、寄付金を原資とした投資を国立大で幅広く認める規制緩和を17年度に実施。寄付を大学経営に活用する意識はさらに高まっている。

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