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未来明るい農業、英IDTechExが「新ロボティクス」で将来動向調査

ドローンは業務用・ソフトウエアがカギに
未来明るい農業、英IDTechExが「新ロボティクス」で将来動向調査

機械学習の農業応用を進める米ブルーリバー・テクノロジー(同社のサイトから)

 ハイテク調査会社の英IDTechExは、人と協調して動作したり場所を移動したりしながら、高度な知能を持たせた「新ロボティクス」について将来動向をまとめた。家庭や社会サービスのさまざまな場面にこうしたロボットの普及が進む一方、家庭用掃除ロボットやホビー用ドローンではコモディティー(日用品)化が進展。収益率の高い業務用市場の開拓とともに、ソフトウエアに重点を置いた研究開発がビジネス成功のカギを握ると指摘した。特に新ロボティクスに代表される自律移動技術の主要ユーザーには農業を挙げている。

 「農業の世界に大きなインパクトを与える」。IDTechExリサーチディレクターのキャシャ・ガファルザデー氏は、農業分野へのロボット応用についてこう期待を示す。なぜ、ロボット農業が有望なのか。世界の人口の増加に伴う食糧需要の増加や、主要作物の収量が頭打ちとなっていること、農業従事者の減少などがその背景にある。

 大手メーカーも動き出している。2017年9月には農機大手の米ジョンディアが機械学習やマシンビジョン、ロボット技術の農業応用を進めるシリコンバレーのスタートアップ、ブルーリバー・テクノロジーを3億500万ドルで買収。ブルーリバーは機械学習で雑草を自動的に検出、そこだけに除草剤を噴霧して除去する技術を持つ。こうした取り組みで、収量を増やしつつ農薬使用量を減らす「精密農業」が可能になるという。

 トラクターなどのナビゲーション技術の進展による自律移動、さらに先端画像処理技術が精密農業を後押しし、日本の大手農機メーカー2社も人間が搭乗する完全自動運転トラクターを開発した。農業分野は無人走行車導入に向けたパイオニアとも言え、無人の完全自動運転トラクターも各社で開発が進められている。

 ただ、自動化が難しい作業もある。代表的なのは表面が柔らかい果物の収穫だ。イチゴではロボットによる収穫技術の開発が先行するが、広大な果樹園でのリンゴなどの収穫には季節労働者が頼りで、生産性は低いまま。そこで、こうした分野を対象にロボットによる収穫物の搬送、データ分析などのほか、果物の自動収穫ロボットの開発に大学や企業が取り組んでいる。グーグル系ベンチャー投資会社のGV(旧グーグルベンチャーズ)などが出資する米アバンダント・ロボティクスは、リンゴなど果物の収穫ロボットをはじめ農業用自動化機器を開発中だ。

 酪農関係では特に乳牛の乳首をカメラで認識し、自動で吸い付いて牛乳を搾るロボット搾乳機が成長分野。そのほか、牛舎で床にはみ出した飼料を牛が食べやすいように押して寄せたり、糞を集めたりするのにも移動ロボットも使われている。放牧した牛を追ったり集めたりするシェパード役のロボットも近い将来、実用化が期待されるという。

 次に日本でも普及が進む家庭用掃除ロボット。機種によっては、カメラ画像を通して屋内での自己位置推定と地図作成を同時に行うSLAM(スラム)という機能を持ち、スマートホームやコネクテッドホームを実現する有力候補とされる。

 この分野では「ルンバ」を2002年に初投入した米アイロボットがけん引役。全体では9億ドル近い市場にまで成長したものの、このところは大手家電メーカーなどの参入が相次ぎ市場や技術が急速にコモディティー化してきた。その一方で、中国という長期成長が期待できる巨大市場も出現。19年にはアイロボットの保有特許のいくつかが特許切れを迎えることから、巨大市場の争奪戦も含め、競争はさらに激しさを増すことになりそうだ。

 コンシューマー向けドローンは2012-13年頃からブームに火がつき、現在、中国のDJIが業界トップ。80%近いシェアを持ち「ドローン業界のアップル」とも言われている。ただ、この市場もローエンド中心にコモディティー化が進み、収益率の低いビジネスになってきた。そのため、仏パロットや中国のユニーク(Yuneec)、ドローンにも搭載されるアクションカメラの米ゴープロなどが相次ぎ人員削減を敢行。逆にDJIはマーケティングと研究開発に力を入れ、豊富な品揃えを強みとしている。

 そうした中、ドローンメーカーの傾向としてこのところ顕著なのが、ハードウエアよりソフトウエアに多額の開発投資を行うソフトウエアシフトと、業務用途の開拓。前者では、米3Dロボティクスのようにドローンのハードウエアからソフトウエア開発にかじを切った会社もある。後者でも、パロットは業務用ドローンの売り上げが増え、17年には業務用の売り上げだけで4500万ユーロ前後に達したという。

 農業、物品配送、地図作成、さらにはインフラ監視、油田・ガス田探索などへの利用も見込まれる業務用ドローンでは今後、自律飛行のニーズが増えるものと想定。障害物回避だけでなく、精度の高い農薬空中散布や、火災の火元検出と消火活動といった、業務用途ごとの自動実行機能も重要になるとした。
 さらに、技術革新が速い分野ということもあり、ロボット機器やドローンを単に販売するのではなく、ロボットを通じて顧客にサービスを提供するRaaS(ラース、ロボット・アズ・ア・サービス)型のビジネスモデルにも着目すべきだとしている。

 産業用ロボットの分野では、世界最大の市場となった中国について当面拡大が見込まれるという。従業員1万人あたりのロボット導入台数である「ロボット密度」が2016年時点で世界1位の韓国や2位のドイツ、4位の米国に比べても低く、3位の日本のほぼ4分の1のレベル。「いまだ全世界平均に比べても密度が低く、その分、市場拡大に向けて非常に高いポテンシャルがある」(ガファルザデー氏)とする。日本での産業用ロボットの導入が始まったのが1976年ごろなのに対し、中国は2000年代に入ってから。社会の高齢化も進んできているため、中国ではまだまだ需要拡大の余地がありそうだ。
2018年5月23日付日刊工業新聞電子版
藤元正
藤元正 Fujimoto Tadashi
この調査会社はロボットやドローンといった最終製品だけでなく、それらを構成するコンポーネントや技術の動向調査でも定評があるそうです。

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