【特別インタビュー】未来学者・川口盛之助氏に聞く(4)モノづくり

面倒くさい分野で稼ぐ/次の「産業のコメ」iPS細胞/中小のワザ世界へ、国は高度な文章翻訳開発を

 -日本のモノづくり産業について。自動車は頑張っていますが、電機はコンシューマー向けが厳しくなっています。

 「自動車や材料・素形材などは以前と変わらず頑張っている。電機だけが極端に落ちた。とは言っても、液晶ディスプレーやスマートフォンや半導体が中心。あまりにも売上高が目立つ巨大な『儲け玉』だったので、ごっそり持って行かれた感じがあるが、それが韓国に食われて次には中国に食われていった。ただ韓国には次の玉が装填されていない。大玉は集中的に資本投下されて簡単に移動しやすいので、次は中国からベトナムなどチャイナ・プラスワンと呼ばれる後続国に移ることがほぼ見えている」

 「簡単に動くものだけがハンドオーバーされていって、ここに至って日本に残っているものは、面倒臭いわりにあまり儲からないものが多い。アメリカや欧州がもう1回やることはないし、韓国も一度おいしい味をしめたのでそんな面倒くさいことに今さらやる気もおきない。だから今生き残っている製品は、容易に真似ができないか、頑張ればできるけれど、それほど投資対効果としては魅力がないというものばかり。これが、寄せ集めればけっこう大変な量になる」

 「何が言いたいかというと、日本はこれからは先減りしないということ。1990年代から2010年くらいにかけてガーンと落ちた。初体験だったのでショックを受けたが、それで下りは終わり。だからと言って増えるわけでもないが、最低でも今ぐらいの感じで頑張れるだろう」

 -失われた20年で日本のモノづくりは打撃を受けましたが、まだまだやっていけるということですか?

 「経産省が出している世界のモノづくり産業の資料があるが、80、90%のシェアを持ち、1000億円級のビジネスを全部で847種類選んでいる。全部で500兆円くらいの市場になる。ハイテク系なので医療、自動車、電機が中心。うち日本は自動車と電機の部品が大量にある。韓国を見ると、これがほとんどない。DRAMとか液晶が高いシェアでどーんとあって、あとは空っぽ。そこを順番として中国などに持っていかれると次弾装填がない。日本は小さいのが大量にあり、欧州は自動車の部品は多く残っているが、電機系は少ない」

 「それに対して、アメリカはまんべんなく結構ある。アメリカは航空機産業もあれば、資源国でもあり、農業で外貨を稼いでいる。医薬品・医療機器も非常に強い。日本の圧倒的な問題は先進国の証でもある医療系に玉が薄いこと。アメリカと欧州にはメガファーマ(巨大製薬企業)がある。(世界2位の医薬品市場である)日本は内需は大きいが、海外にはあまり売っていない。医療関係の装置とかハードの小玉があるだけで、欧米との間で差が開いている」

 -医療関連の研究開発やビジネスについては、日本政府も支援を強化しています。

「医療産業が問題で、次の世代を支える玉であることは間違いないにしても、欧州やアメリカに対し完全に出遅れている。ここを取り返すのはiPS細胞(人工多能性幹細胞)しかない。ある意味、医療産業の成長は再生医療にかかっている。iPS細胞は、かつてのトランジスタに匹敵するぐらいの『産業のコメ』となる要素技術。大逆転できるポテンシャルはあるけれど、その受け皿がない。そうこうしているうちに、いずれ特許も切れてしまう。勝負をかけて限られた時間で成長産業に持っていかなければならないが、あまりにも長く厚労省の保護産業だったことが裏目に出て競争力がない」

 「同じことが農水省管轄の食品にも言える。この二つとも生物関連で未来技術。これが経産省管轄ではなかったので、輸出を想定していない。産業を保護するという名目で自分の省庁を保護することになってしまい、気がついたら弱体化していたのが大きな問題だ」

 「食品関連で有力なのは、CAS冷凍など食品の保存技術。食品にマイクロ波を当てながら冷やす。シラウオでもそのまま新鮮な状態で食べられる。時間を止めるので、まるでワープするように、大間のマグロを上海で食べられるわけですよ。特に足の短い海産物にいい。寿司ブームとか日本食ブームなので、とれたての食品を世界中に運べる。いずれにしても前回の東京五輪の時に冷凍食品が日本で市民権を得たように、食品の鮮度をそのままに維持できる保存技術が広がっていくのではないか」。農業の6次産業化の文脈で言えば、シェフが調理した高級料理ですら『できたてのままワープ』ができる。ミシュランガイドで、世界でも三ツ星レストランが最も多い都市が、東京圏であるということの価値を、技術で輸出・現金化できるということだ」

 -日本の食品加工技術はかなり先進的です。毎年開催される食品機械工業展では、ふだん目にすることのないような驚きの製品が出てきて、テレビで取り上げられたりしています。

 「まさにロングテールで、世界にいけば需要はいくらでもある。この分野での日本の技術は異常に高く、売れる可能性はある。もったいない。こうした分野はロボットメーカーがやっているイメージがあるが、ほとんどが中小企業。アジやタラの皮をむくような機械は、それこそロングテール。世界で市場を見つけてマッチングさえすれば、相当いける」

 -製品一つ一つがそれほど儲からないので、大手は手を出さないのかもしれません。

 「無理やりハイテク技術の話をすると、やはり自動翻訳技術が重要。国のプロジェクトでも、核融合や人工知能(AI)ロボットより、自動翻訳に死力を尽くすべきだと思う。とはいえ音声はどうでもいい。テキストを95%くらいの精度で翻訳できるエンジンがあれば、ウェブ上の日本語コンテンツを世界に発信できる。これは非常にインパクトがある。さっき言ったように、日本には魚の皮むき機のような優秀な製品があるが、世界に知られていない。グーグル翻訳を使ってもろくな訳が出てこない」

 「それに対し、簡単な労力でウェブサイトが全部英語になる自動翻訳技術を国の力でやる恩恵は大きい。埋もれている世界に陽が当たる。翻訳というと音声のほうに行きたがるんだけれど、そっちは全くいらない。音声は旅行用、プロ用はともかく、一般向けは難しい。テキストのほうが圧倒的に重要で、特にモノづくり産業が恩恵を被れる。今の時代、英語でネット上に可視化されていないということは、いない、存在しないということ。東京オリンピックをきっかけに意欲的な日本可視化プロジェクトを立ち上げるべきだ」

<プロフィール>
 川口盛之助(かわぐち・もりのすけ) 
 1984年慶大工卒、米イリノイ大理学部修士修了。日立製作所を経てアーサー・D・リトルジャパンでアソシエートディレクター。13年株式会社盛之助(東京都中央区)を設立し社長。日経BP未来研究所アドバイザー。代表的著作の『オタクで女の子な国のモノづくり』で「日経BizTech図書賞」を受賞。同書は英語、韓国語、中国語、タイ語にも翻訳され、台湾と韓国では政府の産業育成の参考書としても活用される。兵庫県出身、54歳。



※次回は7月13日の週に公開予定

ニュースイッチオリジナル
川口盛之助氏に聞く(3)自動運転車

藤元 正

藤元 正
07月10日
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川口さんの話を聞いていて、日本のモノづくりは多様化が進んでいるとあらためて感じた。確かに欧米企業に比べて収益性はそれほど高くないが、さまざまな中小製造業が存在し、広い裾野と、強固な地盤を形成している。そうした「産業インフラ」の強みを活用しながら、自動車や生産設備に加え、医療系、航空機、鉄道システムといったグローバルな最終製品の競争力を向上させ、かつ中小の「ロングテール」ニッチトップ商品を世界にどんどん売っていく戦略が求められる。

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