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東工大が産学共同研究の子会社を設立したのはなぜ?

指定国立大学制度の規制緩和を活用、自主財源創出へ
東工大が産学共同研究の子会社を設立したのはなぜ?

東工大公式ページより

 東京工業大学は産学共同研究の管理・運営などを手がける子会社を2018年度中に設立する。産学共同研究を活動の中心とする教員100人程度を対象に、大学と新会社の両方と契約を結ぶ「クロスアポイントメント」雇用に変え、運営費交付金による大学の人件費負担を減らす。東工大は子会社から施設や設備利用の対価も徴収し、30年に研究費以外で年8億円の収入効果を引き出す。「指定国立大学制度」の規制緩和を活用した、自主財源創出の取り組みとして注目されそうだ。

 新会社「トーキョー・テック・イノベーション(仮称)」は、数十億円など大型の産学共同研究の受け皿となる。参加する教員は、産学共同研究に携わるエフォート(勤務時間配分)に応じた給与を得る。新会社の単価を高く設定して教員を誘導する。大学が負担する人件費は年約5億円削減する。

 企業が大学に払う共同研究費は研究そのものに使う「直接経費」や水道光熱費など「間接経費」がある。同大はさらに大学の運営のために使える間接費「オーバーヘッド」を設定する。同大の産学連携収入は現在の年約20億円から100億円にし、うち3億円をオーバーヘッドと試算する。

 産学共同研究で教員の人件費や施設など研究インフラ費用は、従来は大学の持ち出しだった。文部科学省などはこれを転換するよう指針を出している。

 東工大は3月、研究・教育など世界一流大学と競う大学を文部科学相が指定する「指定国立大学法人」となった。財務基盤の強化が指定の重要な要件で、東工大は年23億円の新財源創出を計画。今回の子会社設立を柱の一つに位置づける。
日刊工業新聞2018年5月3日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
運営費交付金減で教員人件費が重いのは、国立大学共通の問題だ。このため文系小規模大学は息も絶え絶え、研究型大学も若手研究者の助教などを任期付きに転換したまま動けずにいる。企業資金などを組み合わせて、正規雇用の教員人件費を削減する方策は文部科学省や経済産業省が提案しているが、この具体化に指定国立大でのみ可能な会社設立を絡ませた点に注目したい。会社設立の計画は京都大学に次ぐ2件目だが、京大より積極的だ。唯一の単科大学で指定国立大となっただけに、理工系総合大学トップの存在感を示すものといえそうだ。

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