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老人福祉事業の倒産が過去最多に。高齢化社会なのに約3割が“早世”

法施行で参入相次ぐも専門性持たず。介護報酬改定も追い打ち
 深刻化する高齢化社会を背景に、サービスへの需要拡大などから市場は潤っているかに思える老人福祉業界。しかし、この業界における倒産が今まさにピークを迎えている。

 老人福祉事業者の2017年度(17年4月―18年3月)の倒産件数は90件となり、16年度(88件)に続き2年連続で過去最多を更新した。90件の業態内訳は、通所介護36件、訪問介護32件、有料老人ホーム10件、高齢者専用住宅8件、グループホーム3件、老人センター1件。

 国内倒産件数は、リーマン・ショックが発生した08年度にピークを迎えたが、09年度以降は中小企業金融円滑化法と同法終了後の実質的な効果延長により、16年度まで8年連続で減少した。

 17年度は9年ぶりに前年度を上回り潮目が変わってきたものの、増加率は1・6%にとどまっている。そうした倒産減少基調のなか、全業種を見渡しても今まさに倒産ピークを迎えている業界はほぼ見あたらない。どうしてだろうか。

 振り返ると00年4月の介護保険法施行をきっかけに、老人福祉事業に新規参入する事業者や新設事業者が相次ぎ、01年に2万782だった訪問介護・通所介護の施設・事業所数は2006年には4万357にまで激増。

 しかし、そのほとんどは専門的なノウハウや実績をもたない零細事業者で、サービス開始に至らないケースも少なくなかった。仮に事業を開始しても、資金が調達できない、利用者に対する信用・知名度を高めることができない。また、近年は人手不足が一因となって事業を断念するケースも相次いだ。

 90件の業歴(設立から倒産までの期間)を分析すると、「5年未満」の構成比が28・9%を占めた。17年度の全国倒産(8285件)のうち「5年未満」が9・8%であることからも、いかに生き残りが難しい業界であるかが分かる。

 15年4月の介護報酬改定(総額で2・27%引き下げ)も16年度、17年度の倒産急増に影響を与えた。18年度の改定(0・54%引き上げ)は倒産件数減少をもたらす可能性は高いが、効果が表面化するのは来年度以降。18年度も老人福祉事業者の倒産は、過去最多を更新する可能性が高い。
(文=帝国データバンク情報部)
日刊工業新聞2018年4月24日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
フランスでは安い中古物件にそこに住んでいた高齢者がそのまま付いてくるという法律があるそうだ。「老人ホーム」だけではない高齢者社会の選択肢をもっと増やした方がいい。

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