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『テクノロジー・スタートアップが未来を創る』

著者の鎌田富久氏(ACCESS共同創業者・TomyK代表)に聞く(上)
『テクノロジー・スタートアップが未来を創る』

ACCESS共同創業者/TomyK代表の鎌田富久氏(撮影:冨家邦裕)

 東京大学発ロボットベンチャーのSCHAFT(シャフト)を米グーグルに紹介し、買収を橋渡しした人物としても知られるTomyK代表の鎌田富久氏。モバイルインターネットの先駆けとなったACCESS(アクセス)の共同創業者で、今ではテクノロジー系ベンチャーの起業支援を行うかたわら、東大のアントレプレナー講座のゲスト講師も務める。このほど『テクノロジー・スタートアップが未来を創る』(東京大学出版会)を出版した鎌田氏に話を聞いた。

 −この本のテーマは「若者は起業家をめざせ」だと思いますが、なぜサービスなどではなく、テクノロジー・スタートアップなのですか。

 サービスやネット系、ゲームなどのスタートアップは日本でもけっこう出てきている。むしろテック系は少ない。一方でインターネットやデジタル関連は米国勢に牛耳られてしまっているので、次のイノベーションを狙えるのはテクノロジー・スタートアップだと思っている。

 −そこでは、まだまだ日本のスタートアップが活躍できる余地があると。

 そうだ。そこにはモノづくりも含まれるし、あったほうがいい。ただ、モノづくりだけだと安く作るところが後から出てきてひっくり返されるので、モノづくりとソフト、サービスをくっつけるようなパターンが望ましい。

 −一方で、シリコンバレーだけではなく、中国がスタートアップを大量に輩出しています。日本のスタートアップは対抗できますか。

 対抗しなければいけない。中国は自国の市場が大きいので、日本の製造業が伸びたときのように何をやっても売れる状況にあり、スタートアップがたくさん出てきている。日本は高齢化に医療費削減、労働力不足と世界が将来直面する課題を先取りして抱えているので、そこでいいテクノロジーやソリューションを作り出していけば、かなり行けると思う。

 −中国やシリコンバレーなどの海外勢に比べ、日本のスタートアップに足りないものは何ですか。

 中国と比べてはいけなくて、中国はみんな豊かになりたい、金を儲けたいというガツガツ感がめちゃくちゃある。それに対し、日本では社会を良くしたいとか、課題を解決したいという思いから新しいタイプのスタートアップが出てきている。足りないのは社会の支え。失敗しても次に生かせばいいという環境づくりが必要だ。

 −テクノロジーの分野ではAIがカギになっていて、米国、中国が先を行っている。日本のスタートアップは今後、AIをどう取り込みながら、あるいは開発しながらやっていけばいいのでしょうか。

 データを牛耳られているのでインターネット上のAIで日本が勝つのは難しい。僕の考えでは「リアル世界モノづくり×AI」を日本はやるべき。自動車もそうだし、医療機器とかセンサーを組み合わせたものにAIを使うとか、そうした分野はこれからが勝負。たとえば日本のCT、MRIなどの医療データは質が高い。AIを適用して早期診断への活用をどんどん進めていけばいい。

 −IoTが叫ばれていますが、集まったデータをうまく使って、どうビジネスにつなげていくかの視点が足りないのではと感じています。かたや第4次産業革命と言っているので、ビジネスモデルなり、やり方をガラリと変える考え方を持つ人材が大企業やスタートアップには必要なのかもしれません。

 大企業には優秀な人が多いが、既存の事業もあるし、そっちをつぶすことになるかもしれないので同じ組織ではやれない。外に出さないと難しい。本の中では「特区」と書いたが、社長のコミットメントをもらい、全責任を負って既存の事業に関係なく取り組める体制にしてあげないと。既存の事業は長期的に見てシュリンクしていくので、大企業こそこうした取り組みを採り入れるべきだ。

 組織も大量生産型になっている。それを壊すやり方としてはスタートアップにやらせておいて、買収で外側から取り込むとか、内側の優秀な人を分離して先にやらせるとか、いろいろ手はある。CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)やオープンイノベーションの取り組みも含め、ちょっとやるぐらいでは変わらない。本気で取り組むことが大切だ。
2018年3月30日付日刊工業新聞電子版
藤元正
藤元正 Fujimoto Tadashi
東大在学中に故・荒川亨氏とACCESSを創業した鎌田氏は、大学発ベンチャーの大先輩。本の中でも鎌田氏が支援する東大発のテック系ベンチャーがいくつか紹介されています。スタートアップに対する社会の理解と支援はまだまだ足りないとして、成功者が次の世代の起業家を支えていくという、シリコンバレーでは当たり前のエコシステムが根付いていけば、日本もかなり変わっていくでしょう。

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