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聞こえ方が良いと人生を豊かにする。聴覚ケアの課題

「聴覚は意味のある音として届けられるかが大事」
聞こえ方が良いと人生を豊かにする。聴覚ケアの課題

「オーティコン」公式サイトより

 高齢化の進展で、聴覚ケアの重要性が増している。最近の文献でも認知症やうつ病と、難聴との関連性も指摘されている。補聴器メーカー「オーティコン」の親会社で、デンマークのウィリアム・デマント・ホールディング(WDH)のソーレン・ニールセンプレジデント兼最高経営責任者(CEO)に、聴覚ケアの重要性を聞いた。

 ―聴覚ケアの重要性をどう見ていますか。
 「聞こえ方が良いと人生を豊かにする。人や社会とのつながりが増え、加齢による病気の予防、発症を遅らせる効果が期待される。著名な医学誌でも認知症患者の3分の1に要因があり、その中で難聴を放置することが最も良くないというデータが示された。難聴で社会から遠ざかると、社会から刺激を受けずに脳も萎縮する。難聴を放置することによる社会的な損失は大きい。単なる聞こえ方の問題ではなく、ヘルスケアの一環だ」

 ―日本ではこうした考え方の普及が遅いようにみえます。
 「日本は世界で最も高齢化が進み、健康や医療の水準は高いものの、聴力や難聴への認識や教育水準は低い。難聴ケアの制度や社会システムも他国と比べても遅れている。高齢者だけでなく、一般の健常者にも啓発が必要だろう」

 「聴覚は意味のある音として届けられるかが大事だ。聞こえ方は複雑で個人差もある。専門の教育を受けた人の助けが必要で、個人に合わせた製品・サービスの提供が不可欠。単に製品を売れば良いというものではない」

 ―補聴器の市場の見通しは。
 「日本市場は補聴器の浸透率が低い。実際に使っていても、満足が得られていなかったのではないか。両耳に装用する方が効果的だが、日本では片耳だけに装用する人も多い。だが、日本は市場として潜在的な可能性はある。補聴器を正しく知ってもらい、見方を変えてほしい」

 ―政府への要望は。
 「加齢による聴力障害や難聴は回避が難しい。聴覚ケアが必要になった場合、早期の対応が必要だ。社会的なコスト負担も軽減できる。これまで政府の関わり方も不十分だったと思う。聞こえ方に関する教育や専門人材の育成も必要だ。保険制度の充実など、補聴器を使う動機付けとなる奨励策を求めたい」
WDHのソーレン・ニールセンプレジデント兼最高経営責任者

(聞き手=村上毅)
日刊工業新聞2018年2月6日
村上毅
村上毅 Murakami Tsuyoshi 編集局ニュースセンター デスク
日本の補聴器市場は欧米諸国と比べて、低い装用率が課題だ。手厚い公的支援がないことが主要因だが、専門人材が不足し、補聴器への理解や満足度が乏しいことが影響している。ニールセンCEOは「日本は交通網などインフラ整備が上手。補聴器でできないのか」と訴える。包括的な仕組みづくりが必要だ。

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