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製品化まで15年、日立の研究開発の底力を見せつけたiPS細胞培養装置

大日本住友製薬が装置が納入、パーキンソン病の治療に活用
製品化まで15年、日立の研究開発の底力を見せつけたiPS細胞培養装置

完全閉鎖系の流路を採用し、高い無菌性を確保(日立製作所提供)

 「何度も危機はあった。社内の理解があって研究を続けられた」。日立製作所研究開発グループ基礎研究センタ日立神戸ラボの武田志津主管研究長兼ラボ長は、こう振り返る。

 同社はiPS細胞(人工多能性幹細胞)大量自動培養装置の研究を2002年に始め、製品化まで15年かかった。途中、リーマン・ショックなど逆風下でも研究を維持できたのは将来の可能性を認識していたためだ。

 こだわったのは品質。細胞培養は菌の汚染や異物混入との闘いだ。「医療用を考えれば“閉じた”空間でなければだめだと思った」(武田主管研究長)。

 完全閉鎖系の流路(チューブ)を採用し、高い無菌性を確保。所定の液量を高精度に送る構造を両立した。「生きた細胞を培養するためトライアンドエラーを繰り返し、見えてくる課題をフィードバックし続けた」(半澤宏子主任研究員)ことで完成にこぎ着けた。

 同装置は最大10億個の細胞を培養できる。従来、培養は手作業で大量培養に限界があった。作業者の技術レベルに依存し、品質にもバラつきがでる。熟練者の“匠(たくみ)の技”を装置に置き換えられれば安定した品質で安価に大量に培養できる。

 現在、大日本住友製薬に同装置が納入され、パーキンソン病の治療を目的とした再生医療製品を開発中だ。厚生労働省の「先駆け審査指定制度」にも選ばれ、実用化に向けた治験が始まる。

 再生医療の市場規模は20―30年に飛躍的に拡大するとみられ、特にiPS細胞は日本発の技術として多くの難病を治療する期待も高い。

 そのためには1億円以上とも言われる製造コストを抜本的に低減することが不可欠だ。日立も「製造コスト100分の1」を目標に掲げ、研究開発を進めていく。

 提供する医療体制や教育体制など再生医療の普及には課題も少なくない。だが「再生医療を誰もが受けられる普及医療にする」(同)というのは研究チームに共通する思いだ。
日刊工業新聞2018年1月30日
村上毅
村上毅 Murakami Tsuyoshi 編集局ニュースセンター デスク
再生医療で用いるiPS細胞(人工多能性幹細胞)を大量に自動培養できる。熟練者が手作業で行ってきた細胞培養を自動化・量産化し、培養容器やボトル、流路(チューブ)を連結した完全閉鎖系モジュールを採用して高い無菌性を確保した。細胞品質の安定化や製造コストの低減に寄与する。17年、大日本住友製薬に納入した。

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