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広報の専門家がアドバイス、活字媒体と映像媒体の取材対応で気をつけたいこと

 かれこれ20年近く広報という名のつく仕事をしてきました。最近は相談を受けたりする事も増えてきました。電機やIT業界を主にやってきたので、偏りもあると思いますが、これまで、学んできたことを少しでもお伝えできればと。

 今回は活字媒体と映像媒体での取材対応の違いについて、です。

煙たがられるのを覚悟


 以前、社内報を書いていた事があります。インタビュー記事の原稿確認を本人にお願いしたら、ほぼ丸ごと書き直されてしまう経験もありました。脚色もせずそのまま書いただけで、一語一句間違いは無かったはずなのに…。
 
 書き直しの理由は、「そのまま文字にしただけでは、ニュアンスが伝わらないから誤解が無いように、補足して書き直したい」というものでした。私の力量不足はさておき、優秀な人たちでも、自身の言葉が文字になる事を想定しながら話すことは難しいようです。
 
 そんな苦い経験から、私が取材で同席する時は、誤認が無いよう“その場”で補足したり、軌道修正をバンバンやります。最近は、パソコンで取材メモをとるのも普通になってきたので、取材中に社内関係者に連絡をして、終わるまでに訂正を入れることもできます。
  
 話の腰を折りまくることもありますが、取材後に「あそこのところは、書かないで下さい」と言うよりも、よほど良いだろうと思って、煙たがられるのを覚悟でやり続けてます。
 
 ちなみに、記者さんが手書きメモの場合は、どの箇所でペンが動いているのかを注意して見るようにしてます。興味があって記事にしたいと思っている部分は、当然メモの取り方も違います。キーボードでも打ち方で分かる場合もあります。
 
 特にカリカリ書いている部分で、訂正・補足がある場合は、その場で、そしてハッキリお伝えしないとダメです。これは、絶対です。
 
 取材対応者の発言した言葉が、多面的に捉えられる表現だった場合がそれにあたります。その言葉や発言に「A」と「B」の見方があって、「A」は取材対応者の意図だとします。見方や立場が変わると見えてくる「B」は、たいてい面白いものです。
 
 意識的でも無意識でも記者さんが、「B」を軸にストーリーを思い描き始めてしまったら、それを崩すのはなかなか手間がかかりますので、早めに対処するのことです。

キーマンはカメラマン


 次はテレビ媒体におけるインタビューのアテンドの際に、気を付けていることです。シチュエーションは発表会会場や会議室。対象は、経営トップ、企画・開発者など、物撮り込みもアリ。
 
 活字媒体と映像(テレビ)媒体では、その違いを強く意識している事が2点あります。まず一つめは、テレビは、活字媒体と比べて使われるコメントが非常に短い、ということ。偉い人でも数秒なんてザラです。
  
 二つめは、同じコメントを発したとしても、テレビ視聴者の受けとる印象と活字媒体の読者の持つ印象が異なる可能性がある、ということ。

 活字媒体の場合、それぞれの事柄に対して、ある程度の枠は確保されるため、そのコメントだけで紹介されることは、ほとんど無いという認識があります。コメントを補足する前後の文章が存在します。

 もちろん、「A」という媒体として、記事は書かれていますし、読者も「Aには、こんな風に書いてあった」という受け取り方。
 
 テレビの場合、視聴者に直接訴えかけるような目線の企業トップのコメントが流される事になります。その数秒のひと言は、視聴者によっては、あたかも企業のトップから直接聞いたかの様な錯覚を持つ方も少なからずいると思います。
 
 つまり、数秒しか使われないテレビのコメントをどのようにして企業の伝えたいひと言にするか、が広報アテンドの仕事です。テレビの記者さんの多くは、だいたい撮りたい言葉が決まっていて、その言葉が出るように質問をしてきます。素直な取材の場合は、何を言ってほしいのか?聞けば教えてくれます。
 
 でも、発表会の場などで、企業側が言いたくないだろうな、という言葉を言わせたいと思っている場合、先には教えてはくれません。
 
 事前に予定していた無難な質問がひと通り終わり、対応者が慣れてきた頃に、さりげなく、その質問をしてきます。質問内容が「まずいな」と思った時、申し訳ないと思いながらも、対応者が話し始める前に、「あら?もしかして、事前に伺ってなかった質問ですね!」と言って邪魔をしてしまったりします。話し始めちゃったら終わりですから。
 
 テレビのインタビューに関しては、どこを切りとられたとしても、誤認のない発言だけを気分よく、持って帰っていただく。それがベストです。でも、なかなかのスキルが必要で、リスクもあるので、やるときは、気を付けてください。
 
  取材を遮るのは、最終手段で、本当はやらない方がいいに決まってます。もちろん、その前にできることが沢山あります。
 
 とにかく正確に理解していただくこと。専門性の高い記者さんの場合は別ですが、テレビの記者さんは、担当範囲も広いので、ひとつの業界を深く取材をしているわけではありません。ですから、どの程度の知識をお持ちか?を探りながら、補足し、丁寧にレクチャーすることがとても大切です。
 
 そして、記者の方はもちろんですが、テレビの場合、やはりカメラマンさんが、キーパーソンです。カメラマンさんは経験の長い方も多く、各業界の大きな発表会にも沢山出ていて、知識も豊富です。

 そして、現場での意見は絶大です。私はいつもカメラのセッティングの合間に、記者さんだけでなく、必ずカメラマンさんも交えて、会社の考えや主旨をご説明させていただくようにしています。
 
 そうすると、現場は、極めてスムーズで、良い映像を持って帰ってくださるものです。カメラマンさんって、相当頼りになりますから、丁寧に対応されることを強くお勧めします。
(文=遠藤眞代)
<略歴>
1993年ソニー株式会社入社 商品企画・渉外を経験し、ソニーマーケティングを経て、2006年からソニーで対外広報業務に従事。主にAV機器などを担当する。2013年にソニーを退職、その後フリーランスとして活動。現在、中小企業やスタートアップなど計3社の広報業務を受託している。
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明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
遠藤さんとはソニー時代からのお付き合い。もちろん広報と記者(メディア)側から見える視点や考え方は違って当然。僕もよく広報やPR会社の方などからアドバイスを求められることがあります。記者はストーリーを考えます。できるだけ自分しか考えつかないストーリーを。ミスリードはよくないですが、記者のストーリーに一緒に肉付けしてくれる広報は、信頼関係が積み上がっていきます。対企業の広報というより、同じ企業にも数多くいる広報の中で、信頼できる人を常に探し続けています。広報の方も信頼できる記者を見つけて下さい。

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