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EVの電池が重い!素材業界、軽量化を何とかして~

投資も活発に
EVの電池が重い!素材業界、軽量化を何とかして~

東レのセパレーターフィルム

 電気自動車(EV)時代の到来は素材業界に新たなビジネスチャンスをもたらす。リチウムイオン二次電池(LIB)用部材は当然ながら、軽量化や制音化につながる材料への関心も高い。

 軽量化は自動車メーカーが抱える永遠の課題だが、重たい電池を載せるEVの軽量化ニーズはとりわけ大きい。金属代替として樹脂化の流れは進むが、高い単価を補うさらなる付加価値が必要だ。

 住友化学が売り出し中のスーパーエンジニアリングプラスチックの液晶ポリマー(LCP)は耐熱性などに加えて制音性が特徴だ。

 機能樹脂事業部の原田博史エンジニアリングプラスチックス部長は、「EVはエンジンがなくなり圧倒的に静かになる。今まで全然気にならなかったノイズが気になりだす」とEVと制音性の関係を説明する。

 LCPは自動車の外板用途を中心に提案を重ねている。「自動車メーカーは軽量化が必達課題で、樹脂を使いこなさないといけなくなってきた。

 従来はスーパーエンプラなど単価で見向きもされなかった」(原田部長)とし、世界的な燃費・環境規制強化が顧客の意識変化を促している。

 UACJの岡田満社長は「EVは電池の重量が重く、車体全体の軽量化に向けてアルミニウム化が進む」と期待する。同社は総額約160億円を投じ、福井製造所(福井県坂井市)内に車用アルミパネル材の生産ラインを新設する。

 2年後の20年1月に稼働予定。同パネル材の国内生産能力は現在比4倍の年13万トン強に拡大する見通しで、EV関連の需要にも対応していきたい考えだ。

 EV普及のカギを握る充電インフラ整備。その充電設備向けの素材も引き合いが強まっている。三菱ケミカルの電線被覆材用樹脂もその一つだ。

 パフォーマンスポリマーズ本部・グローバル事業室の吉留正記次長は、「約5年前から日米欧で充電ケーブルの規格が制定され、姿形や使っていい材料、材料の物性などを規定している。我々の技術力と顧客ネットワークを生かせると判断して参入した」と語る。

 現在は「特に引き合いが強いのは中国だ。今後は中国や欧州などEVで大きな目標を掲げている国がどういう(充電インフラ整備の)プランをつくるかを調査する」(吉留次長)と成長市場に狙いを定める。

 セパレーター(絶縁材)で業界首位を狙う東レは、約1200億円を投じ、20年ごろの生産能力を現状比3倍の年20億平方メートルに引き上げる。

 最大拠点の韓国工場を増強しながら工場を持たない欧州や北米に生産拠点を設立する方針だ。足元では、韓国工場の増産が進み生産能力は18年度初頭に約6億5000万平方メートルとなる見通し。

 一方、現在世界トップの旭化成は20年にセパレーターの生産能力を同15億平方メートル程度に拡大する。現在の生産能力(建設中含む)は8億6000万平方メートル。今後の増強は既存拠点の守山製造所(滋賀県守山市)や、買収した米ポリポアの米欧工場などを活用する。

 帝人は後発ながら民生用LIB向けでセパレーター販売を伸ばしてきた。今後はEVやハイブリッド車(HV)の増大をにらみ、車載向けの生産を始める方針だ。足元の生産能力は年3600万平方メートルで、約70%増となる6000万平方メートルまで伸ばす検討に入っている。

 車載用LIB向けの正極材料「ニッケル酸リチウム」(NCA)を生産する住友金属鉱山。18年1月までに月産能力を従来の1850トンから3550トンに増やす既定方針を見直し、同6月までにさらに1000トン分上積みすることを決めた。

 製品は主に米テスラのEVで使われている。住友鉱の黒川晴正取締役専務執行役員は「EVはHVと比べ、1台当たりに必要な正極材の量が100倍にもなる」と説明。EV化の進展により、正極材の需要は大幅に拡大すると読む。

 BASF戸田バッテリーマテリアルズ(東京都港区)は、17年12月にLIB向け正極材の生産能力を従来比3倍に引き上げた。小野田事業所(山口県山陽小野田市)に焼成設備などを増設し、ニッケル系正極材で世界最大規模の生産体制を構築したという。

 また、親会社の戸田工業と独BASF(ラインラント・プファルツ州)は日本に続き、米国でも正極材の協業を始めた。BASFが過半数を保有する合弁会社「BASF・トダ・アメリカ」を設立。両社がミシガン州とオハイオ州にそれぞれ持つ正極材工場を新会社の下で一体運営する。車載電池市場の成長速度に即応できる体制へ切り替える。
三菱ケミの電線被覆材用樹脂

(文=鈴木岳志、斉藤陽一、堀田創平、小野里裕一)
日刊工業新聞2018年1月4日
鈴木岳志
鈴木岳志 Suzuki Takeshi 編集局第一産業部 編集委員
日産自動車が2010年末に「リーフ」を発売して以来幾度となく“EV元年”という言葉が浮かんでは消えた。しかし、日米自動車大手の積極姿勢を見ると、今回こそは本当のEV時代がやって来るかもしれない。

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