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アウディが月面探査コンテスト参戦、独チームに技術協力

自動車の全輪駆動、軽量化、電動技術を結集し探査機開発
アウディが月面探査コンテスト参戦、独チームに技術協力

アウディ・ルナー・クワトロ

 優勝賞金2000万ドルをかけ、無人ローバーでの月面探査を競う「グーグル・ルナーXプライズ」(GLXP)コンテストに、独アウディが参戦することになった。ドイツから参加予定の「パートタイム・サイエンティスツ」チームに、「クワトロ」のブランド名で知られるアウディの全輪駆動技術などを提供、ローバーの性能向上や軽量化に向けた技術サポートを行う。「アウディ・ルナー・クワトロ」と名付けたローバーは、2017年に月に向けて打ち上げられる計画だ。

 アウディのさまざまな技術部門から計10人のエンジニアがパートタイム・サイエンティスツに協力し、全輪駆動ほか、軽量化や電気駆動システム「e-tron」の技術を活用。ミュンヘンのアウディ・コンセプト・デザイン・スタジオでローバーの改良に当たる。

 「アウディ・ルナー・クワトロ」は、極限環境を想定したローバー。30cm四方の太陽電池パネルを持ち、発電した電気をシャシー中心部のリチウムイオンバッテリーに蓄える。GLXPコンテストで要求される月面500mを走破するのに十分なバッテリー容量を持つという。

 デコボコの地表面でも乗り越えられるよう、4輪はそれぞれダブルウィッシュボーンのサスペンションを備え、車輪は360度以上回転する。理論上の走行スピードは最高で毎時3.6km。本体は高強度アルミニウムで作られ、重量35kg。軽量化すれば走行に必要なエネルギーが少なくなるばかりでなく、月への打ち上げコストも安くて済む。自動車分野の先端技術を応用し、マグネシウム素材の採用や設計変更によりさらに軽量化が可能という。

 上部の頭に当たる部分には合計3つのカメラが付いていて、2つのカメラで詳細な3D画像の撮影を行う。3つ目のカメラは月面の砂や岩などの高精度画像を撮影するのに使われる。

 ベルリンを本拠地とするパートタイム・サイエンティスツは、GLXPに向け2008年に結成され、ドイツ、オーストリアを中心にエンジニア35人で構成。これまでローバーの試作機を2機作製した。ベルリン工科大学、ハンブルク・ハーブルク工科大学ほか、パートナーとして、グラフィックスプロセッサーの米エヌビディア、金属粉末積層製造システムの独SLMソリューションズ、オーストリア宇宙フォーラム、ドイツ航空宇宙センター(DLR)などが協力している。

 GLXPは米Xプライズ財団が運営、米グーグルがスポンサーとなった国際コンテスト。参加チームは、2015年末までに探査車の月への打ち上げ契約をし、2017年末までに月面を500m走破、その詳細な静止・動画映像とデータを地球に送信するのが条件。優秀なチームに対して総額3000万ドルの賞金が贈られる。

 GLXPのサイトによれば、現在のところ世界中から16チームが参加を表明。米アストロボティックと日本のハクトの2チームが、2016年後半に米スペースXの「ファルコン9」ロケットを使い、相乗りで打ち上げ契約をしている。アストロボティックはカーネギーメロン大学発のベンチャー企業で、月への物資輸送を行う。

 1月にはローバーの開発などが順調に進んでいるチームに対し、資金をサポートする中間賞(マイルストーン賞)を発表。ハクトとアストロボティック、それに今回のパートタイム・サイエンティスツ、さらに米ムーン・エキスプレス、インドのチーム・インダスの5チームに総額525万ドルが与えられた。

 中間賞では、ハクトが探査機開発の「モビリティー」部門のみの受賞で賞金50万ドルだったのに対し、パートタイム・サイエンティスツは「モビリティー」と光学システムの「イメージング」2部門で75万ドル、探査機に加え「グリフィン・ランダー」という月着陸船まで開発するアストロボティックは、着陸の「ランディング」を含め唯一3部門で受賞、175万ドルを獲得している。
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藤元正
藤元正 Fujimoto Tadashi
東北大学・吉田研究室を拠点に日本から唯一参加するハクト。GLXPでの優勝に加え、4輪と2輪計2台のローバー(ムーンレイカーとテトリス)を連携させて、世界初となる月面の洞窟探査をミッションに掲げる。成功すれば科学的価値は非常に大きい。GLXPは賞金も打ち上げコストもケタ外れのイベントだが、探査機の軽量化・低コスト化の工夫などを含め、得られた知見がのちの月探査や宇宙開発に役立てられることを期待したい。

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