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気鋭のAIベンチャー代表と夏野剛氏が語る、「AI時代に人間はどうなる?」

グローバル・ブレイン アライアンスフォーラム2017
気鋭のAIベンチャー代表と夏野剛氏が語る、「AI時代に人間はどうなる?」

左より、金井良太氏、夏野剛氏

 ベンチャーキャピタル(VC)のグローバル・ブレイン(東京都渋谷区、百合本安彦社長)は8日、「グローバル・ブレイン アライアンスフォーラム2017」を開催した。その中で投資先であるAIベンチャー「ARAYA(アラヤ)」代表取締役CEOの金井良太氏、慶應義塾大学大学院特別招聘教授の夏野剛氏が「人工知能の現在と未来」というテーマでトークセッションを行った。

AIは好奇心を持つか?


夏野 まず最初に、「AIベンチャー」を謳う企業が最近多く出てきていますが、「それ本当にAI?」と思ってしまうようなものもあるように感じます。
金井 そうですね…そのうちAIが浸透していったら「パソコンで計算してるだけでAI」みたいに言われてしまうかもしれないですね(笑)
夏野 ここにお集まりの皆さんはぜひ、しっかりとベンチャーを見極めてほしいですね。それでは本題に入りましょうか。アラヤで研究開発していること、目指していることを教えてください。
金井 人工意識を作ろうとしています。脳からなぜ意識が生まれるのか?を知りたいというのがもともとの研究目的。これが分かることで圧倒的な人工知能ができるんじゃないかと考えています。私はもともとサイエンスの人間なのでサイエンスで研究していきたいんですが、今サイエンスのビジネスモデルって壊れはじめている。大学でも役に立つことをやれと言われたり。そこでわれわれはサイエンスとテクノロジーをくっつけて開発し、役立つものをつくり、新しいサイエンスのやり方みたいなものも作っていきたい。そうなってくるとしっかり儲かることをやらなきゃならないので、ベンチャー企業としてさまざまな企業とビジネスをすることで世の中のニーズを把握するようにしています。
夏野 今のディープラーニングやマシンラーニングは、データをたくさん与えて、いわば人間の子供が学習し判断ができるようになる過程のような経験をさせている。でもそもそもなぜ人間はそうやって物事を判断できるようになっていくのかをシミュレートしていないですよね。
金井 実際、人工知能を作る時にはまだ人間の在り方から学べることはたくさんあると思います。われわれは好奇心をAIに持たせるような研究も行っているんです。AIが好奇心を持つことで、勝手に検索して情報をまとめて提供してくれるようになるのでは。
夏野 自分と同じ好奇心を持つAIがいて、自分が寝ている間に必要な情報を取得してきてくれるというイメージですかね。

「意識」とは何か


金井 意識の話をしたいと思います。意識はどうして生まれたのか?は科学における難問です。例えば何かが「見えた感じ」というのは物理世界におさまっていない。主観的に見えた感じというのは機械に聞いても分からず、「感じ」を確かめられない。また、AIは「おいしい」「痛い」などを感じられない。
夏野 SF小説では意識は長年問題になっている。それがリアルにサイエンスできるようになってきた。
金井 意識は科学者の間では“下ネタ”のように「まともな科学者が言っちゃいけない」感じになっていた。だから説得力のある研究をしなければならないんです。
金井 現在の人工知能は複雑なニューラルネットワークを積み重ねていって、かなり複雑なことを学習できるのですが、数学的に考えると、入力と出力があって、その関数を学習しているだけなんですね。よく今の人工知能は1つのことしかできないなどと言われますが、私たちの使い方がそうなっているからで。
 グーグルがAIを研究した時には「ネコ」という単語と1つの画像を結び付けるというものでした。しかしネコの鳴き声を聞いたら「ネコ」と認識することや、「ネコ」とタイプしたら違うフォントで出すとか、「ネコ」を中心としたネットワークって作れるわけで、「意味」というのは1つのものを中心として何を示唆しているか、矢印でネットワークを行き来できるかだと思います。こういうものが脳の中に何万個もある。すでにモジュール化は進んでいて、それらをどういう風に組み合わせたら問題が解けるか、というようなアプローチも必要になってくる。
夏野 AIをつきつめると人間の研究になってくる。いまの話も人間の脳に置き換えるとわかりやすく、たくさんの人間が集まって仕事をすると相互補完や相互作用で単純な「1+1」とは違う価値を生む。AIの話ではビジネスに遠い話をしているように思えますが、人間社会そのものが1つのシミュレーションを毎日繰り返しているんですよね。
金井 また、「意識を測る理論」というのがあります。これがあるとロボットの中にどれだけ意識があるかが分かるんですが、この理論が合っているか確認するため現在サルの脳を研究し、どこに意識があるかを探っている。脳の表面の電気信号をみて、どこにどれだけ情報が統合されているかを探るんです。
夏野 画像を見ている時、計算しているとき、どこに脳がうごいているかわかってきている。そこに先ほど言っていたモジュールがあるということですね。
金井 面白いのが、運転中にラジオを聞いていると、「運転」と「聞く」は分断されているが、カーナビが「右に曲がってください」などと指示を出した時は「運転」と「聞く」の情報が統合されているんです。

人間はどうあるべき?


夏野 こういう話を聞くと、シンギュラリティが現実味を帯びてくるのかなと。
金井 われわれとしてはシンギュラリティがリアルになるくらいAI研究を進めたい。まずは基礎研究をどうビジネスに応用するか。最近ディープラーニングをものすごく軽くする技術が出てきた。スマホで動くくらい、自動車の上で動くほど軽くする。今後も研究していることを他に負けない技術に応用していきたい。
夏野 この技術が進めばAppleの「Siri」がネットにつながらず単独で動くようなことになる。翻訳もスマホ単体でできるようになりますね。
金井 もっとディープラーニングを生活のなかで使えるようにしたいと思っています。
夏野 しかし人間はコンピューターよりも体験できる情報量が多い。感覚や雰囲気など。AIに取られる仕事は全部とってもらって、もっと自由に生きていくのがいいかなと。
金井 不思議ですよね。技術が進めばもっと人間は自由になれるのに、危機感を持たれます。
夏野 われわれ自身が好奇心をもって人と繋がることがAI時代に生きて行くために必要ですね。そのツールとしてAIを「友達」にして自分のネットワークに組み込んでいく。
金井 好奇心がないと単純作業をやることになります。好奇心を持つことが喜びにつながるから人間は知的生物として生きてきたんでしょうね。
夏野 もうこの話は分野をこえています。哲学、工学、医学の話でもあるし。
金井 理系文系と分野をわけることが時代遅れになっているんでしょう。
ニュースイッチオリジナル
昆梓紗
昆梓紗 Kon Azusa デジタルメディア局DX編集部 記者
アラヤは電通国際情報サービスとともに「マグロ個体数カウント」実証を行っています。マグロの養殖場で画像認識技術を使い個体数カウントを実現しました。

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