ノーベル物理学賞受賞の江崎氏「東京大空襲の翌朝も物理学に没頭」

どうなる日本の科学(6)茨城県科学技術振興財団理事長・江崎玲於奈氏

―ノーベル賞で基礎科学が評価される一方、“稼げない科学”の振興が課題です。

「ノーベル賞自体は基礎科学のためだけの賞ではない。日本人受賞者が続いたため、『物理学といえば素粒子』のイメージが強い。このため素粒子に優秀な人材が集まり、成果が出て受賞が続く好循環がある。しかし私はマテリアル分野の研究者。ソニーで量子トンネル効果を見つけ、『エサキダイオード』を発明した。科学で稼ごうとするなら、バイオやマテリアル分野により多く投資するべきだ。近年受賞が続き、脚光を浴びているこの機に、好ましい新たな流れを作るべきだ」

―新たな流れとは。

「新しい仕事を正当に評価できるのは優れた英知を持つ研究者だけだ。そのような人材が集まれば新分野開拓の流れができる。私のころは国内学会で発表しても、『企業の若造が』と相手にされなかった。しかし当時の米国は違った。先入観なしに私の仕事がフェアに評価され、米IBMに移籍した。素粒子を研究していたら違ったかもしれない。どの分野に人材が集まり、研究が育つか、これは急には動かせない。徐々に新しい流れを作るしかない」

―教育制度の問題を指摘されています。

「日本の学校では勉強のできない子を引き上げる教育が長く続いてきた。だがスポーツはできる子をもっと伸ばす。科学もできる子を伸ばす英才教育が必要だ。また日本は大学などの高等教育への投資が少ない。早急に世界のトップ10に入る大学を実現すべきだ。米ハーバード大学の卒業生は世界に貢献していて、日本も恩恵を受けている。東京大学の学生は日本のためでなく、海外で活躍したらいい」

「私がIBMに移ると頭脳流出と批判されたが、海外の知見を日本に持ち帰ることができた。活躍する姿を見て、日本で学びたいと思う人材が増えれば人材流入につながる」

―若手への激励を。

「いまの日本は若者ではなく、年寄りが多くなったこと、高齢化が最大の問題だ。高校生だった私は戦時下の欺瞞(ぎまん)情報が渦巻く中で、どう生きるかを必死に自問した。人間の可能性を広げてきた科学と普遍的な物理学を選んだ。そして10万人以上が亡くなった1945年3月の東京大空襲の翌朝も東大では講義が開かれ、私は惨事を忘れて物理学に没頭した。このとき、『何があっても学ぶことに最大の価値を置け』と教わった」

「創造力は若いほど発揮される。これは学校の成績では測れない力だ。若い創造力こそが革新を生み、未来を創る。優れた研究は必ず世界が評価する。若者たちよ、野心的な研究に挑戦してほしい」

日刊工業新聞2017年11月21日

小寺 貴之

小寺 貴之
11月22日
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戦争を直接経験した世代の言葉は重い。死ぬ気で研究に打ち込めば、現行制度の課題は小さな問題なのかもしれない。日本で評価されなくても世界なら、現在の社会が評価できなくても20年後の人類なら、と信じて続けて来られた人がいま評価されている。その確固たる信念は、競争やポストなど外部環境を整えて醸成できるものではないかもしれない。

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