オムロンが進める地上10メートルのモノづくり革新とは?

自社工場をショールームにビッグデータ活用

 IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)の進化で製造現場が大きく変わろうとしている。オムロンはモノづくりの知能化を支えるIoTサービス基盤「i-BELT」を8月に発表。ビッグデータによる生産革新を加速し始めた。その事業拠点である草津事業所(滋賀県草津市)や綾部事業所(京都府綾部市)では、自らもショールームとなるべく、現場視点のモノづくり革新が進行している。こうした「i-BELT」による現場視点のモノづくり革新の取り組みを29日から東京ビッグサイトで開催されるシステムコントロールフェア2017で公開する。

 マシニングセンター(MC)の真横に備え付けられたモニター。緑の折れ線が上昇し始めると、それに呼応して青の折れ線が下降し始める―。緑線が加工抵抗値、青線が工具の送り速度を表している。加工抵抗値は、ワーク保持の治具に取り付けた振動センサーから検出。プログラマブルロジックコントローラー(PLC)「NJ」が、最適な送り速度を割り出し、MCをリアルタイムに制御する。草津事業所では制御機器部品であるリレーやスイッチを量産するための金型を製造し、国内外の拠点へ供給。9月から加工状況に応じてリアルタイムにMCの加工条件を制御するシステムを稼働し始めた。
緑の線(加工抵抗値)が上昇すると、青の線が下降(送り速度)する。

もっとスピードを


 多品種少量生産が当たり前となる中、金型の生産性を高めることはこれまで以上に競争力へ直結する。そのため同社でも熟練技能者による経験と勘で、工具メーカーの推奨値を超える加工速度を追求し続けてきた。それでも「もっとスピードを上げられないか」という要求が高まっているという。

 同社の金型は微細加工が必要で、使用する工具も最小0.2ミリメートル径と小径のものが多く、それだけ摩耗が進むと折れやすい。生産性向上には、送り速度を高めるなど加工条件を厳しくしなければならないが、余裕を持たせないと加工中に工具が折損しダウンタイムにつながってしまう。そんなトレードオフにどう折り合いを付け、最適な加工条件を限界まで追求していくか。熟練工を超えるための試行錯誤が始まったのは2年前だ。

 「最初は主軸モーターの電流値から微細な振動を検出しようと考えたが、あまりに微少なためノイズに紛れてしまった」と、グローバルものづくり革新本部の山崎雄司技術士は振り返る。そのためワークの振動値を高分解能センサーで直接検出する今回の方法を採用した。そして加工抵抗値の閾値をどこに設定し、最適な加工条件をどのように設定するかというアルゴリズムを作り上げ、システムを完成させた。
マシニングセンターに取り付けた振動センサーを指さす山崎技術士

加工時間は40%削減


 振動センサーから3秒に一回送信されるデータを基に、NJは10秒ごとに制御データをMCへ送り込む。同時にこれらのデータはすべてネットワーク上のコンピューターに保存される。もともと熟練工が工具メーカー推奨値の1.3倍まで送り速度を引き上げて加工していたが、今回のシステムでは「3~5倍まで高めることができた」(山崎技術士)。これにより加工時間は従来比40%も短縮。一方で工具の摩耗は同20%削減でき、その寿命は倍に伸びた。現在は3軸MCで、0.2ミリ~6.0ミリメートル径の工具、加工材料は銅に対応。さらに5軸MCや焼き入れ後の金型加工にも拡大していく計画だ。

 一方、綾部事業所の近接スイッチモジュールの組み立てラインでは、チョコ停発生を予防するシステムの実証に取り組んでいる。ロボットが微細な部品を組立装置の所定位置に挿入したり、取り外したりする工程で、9月から3ラインへ導入し効果を検証中だ。1ラインごとに、チョコ停が月間で4.5時間、部品ロスが1万3000円ずつそれぞれ低減することを見込んでいる。

 部品をつまみ上げたロボットが高速で所定位置に挿入する。肉眼では正確な位置に見えるが、1000分の1のハイスピードカメラではわずかなズレが確認できる。この位置にレーザー変位センサーを取り付け2秒ごとに波形データを収集し、そこから一定サイクルごとの特徴量をトレンドグラフにして表示。閾値を超えると警告を出す。ズレの程度を把握することで、オーバーホールや段取り替えのタイミングで事前に調整できる。
綾部事業所のチョコ停発生予防実証が草津事業所でもリアルタイムで確認できる。

予防保全へのニーズ高まる


 製造現場ではビッグデータ活用への取り組みは始まったばかり。まずはどのようにデータを集め、活用するのかという段階にあるのが実情だろう。そこでニーズが高いのが、予防保全の実現だ。できるだけ設備を有効活用するとともに、得られたデータによって新たなノウハウを蓄積できる。人手不足や技術継承の問題、高品質化や多様化への要求など絶え間ない課題が、国内外を問わず現場には突きつけられている。

 オムロンではモノづくりの世界を、産業のサプライチェーンを地上1000メートル以上、ERPが扱う企業システムは同100メートル以上、工場全体を管理する製造実行システム(MES)は同10メートル以上と定義。そして同社が徹底してこだわるのが、同10メートル以下にあたる製造現場のIoT化であり、ビッグデータやAIの活用だ。そんな地に足の付いたモノづくりの革新が動き始めている。

<関連サイト>
システムコントロールフェア2017と2017国際ロボット展への出展のお知らせ

製造業のモノづくり現場を革新するコンセプト“i-Automation!”


  

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