【松尾豊】AIロボット「日本企業はピークの20代につまらない作業をさせている」

AI研究の第一人者「フライングでも進めないとビジネスでは勝てない」


ピーク年齢は20代


 ―設備投資がデータと人への投資に変わると伺いました。AI分野は人材獲得競争が激化しています。高額報酬は投資になりますか。
 「ソフトウエアやITの世界では優秀な人と、そうでない人で約30倍、生産性が違う。これが報酬に反映されるのは自然な流れだ。プロスポーツ選手のようにトップエンジニアや研究者を数億円で迎えることは珍しくない。また情報技術者のピーク年齢は20代。30代で円熟し、40代はマネジメントにまわる。これは米グーグルのラリー・ペイジもフェイスブックのザッカーバーグ、アップルのジョブズ、マイクロソフトのゲイツもそうだった。対して日本企業では20代につまらない作業をさせている。40代は60代の経営層に技術や実績を説明して、60代が理解できなければ流れてしまう。40代は決定権も持たない。野球に例えると、監督が打席に立っているようなものだ。本来もっと実力があるはずだが、組織として力を損なっている。海外から見ればくみしやすい相手だ」

 ―ものづくりやロボットは、技術のすり合わせの塊なので経験が重要です。裁量が上の世代にいくのは自然だと思います。
 「ピーク年齢は業種や職種で変わる。研究者では数学が20代、工学は30から40代、政治学など答えのない学問は年齢とともに力をつける。ハードウエアのすり合わせは40代、経営者は人脈や危機管理、経験が必要で高齢になる。いま日本が負けているのはITやソフトウエアとハードウエアの融合領域だ。ハードのすり合わせが強いところで競争力を保っているが、ソフトが重要な領域では勝てたことがない。必要な技術とその人材のピーク年齢に合わせて組織体制を見直す方が自然だろう」

“レバレッジ”で規模のメリット生かせ


 「その答えの一つが若いAIベンチャーとハードウエア大企業の連携だ。また連携に“レバレッジ”という概念が必要だ。ベンチャーなどが大企業のデータや資産を使って、サービスを改善し、その資産を増やすことができたら、その利益の何割かをベンチャーに支払う。ベンチャーだけでハードやデータ独占競争を戦うのは難しい。すでに市場や顧客を抱える大企業の資産を活用できれば、規模のメリットを受けられる。ベンチャーが1兆円事業を立ち上げるのは難しいが、5兆円の事業を10兆円に伸ばしたら1兆円もらえるとなれば、世界から人材が殺到する。ベンチャーと大企業だけでなく、若者と高齢者など世代間での連携も同じだ。すでに人口が多く、増え続ける高齢者の課題を解いたら、若者に還元されるのであれば、本気で社会課題に挑戦するだろう」

 ―レバレッジを効かせるモデルはモラルハザードに陥るリスクが小さくありません。
 「当然、倫理や人格教育はセットだ。科学技術は多くの人に支えられていること、すぐに成果が出なくても研究開発を続けられるメンタリティーは教えないといけない。これは日本の組織の強い部分だったはずだ」

 ―一人ひとりができることは。
 「人工知能技術について最低限の知識は身につけてほしい。日本ディープラーニング協会を設立し、ジェネラリスト用とエンジニア用の検定・資格試験を始める。AI関係の投資話は相手を簡単にだませてしまう。技術や限界を知らなければイメージに踊らされてしまう。本心でいうと、産業や科学技術政策を担う人は全員に受けてもらいたい。産業用ロボットを自動車メーカーが育てたように、賢いユーザーが技術を育てる。ユーザーのレベルを上げることこそが、技術力を上げる道だ。日本がITで勝てなかった原因でもある。健全な技術開発を促すためにも一人ひとりが人工知能を学んで、競争力を高めてほしい」
「ユーザーのレベルを上げることこそが、技術力を上げる道だ」と松尾さん

【略歴】
 松尾豊(まつお・ゆたか)1997年(平成9年)東京大学工学部電子情報工学科卒、2002年同大学院工学系研究科電子情報工学博士課程修了。博士(工学)。同年より独立行政法人産業技術総合研究所研究員、2005年よりスタンフォード大学客員研究員、2007年より東京大学大学院工学系研究科准教授、2014年より同特任准教授(現職)。2015年より産業技術総合研究所人工知能研究センター企画チーム長(現職)、2017年より日本ディープラーニング協会理事長(現職)を兼任。専門は人工知能。


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小寺 貴之

小寺 貴之
11月01日
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ロボットやAIが進化したら人間は何をしたら良いの?、と何年も問われ続けてきた松尾先生は、ユーザーのリテラシーが技術を育てるという答えにたどり着きました。その背景にはITで負け続けてきた歴史があります。このままフツーに戦えば、フツーに負けるそうです。私はロボットやIoTを介してデータが環流するビジネスモデルを日本で最初につくるのは総合電機だと思っていました。データ科学とITインフラ、家電などの端末、演算素子などのすべての技術ノウハウがあって大きな絵を描けます。ただ話を聞いていくと個々に小さく黒字化してから徐々に育てることを頑張っています。みな合理的に地道なアプローチを選び、その途中の同業や社内への牽制も激しく、国の英断を待っていたりします。この活動はいつプラットフォームに育つのかと思ったりもします。これがフツーに戦うということかもしれません。〝合理性〟自体も変えないといけないかもしれません。

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