【憂国の経営者・川村隆】サラリーマンよ、50才まではまだ自分を変えられる

東電会長・日立元社長が大企業の限界論を説く


創業者がまだ活躍している会社は事業がどんどん広がる


 ―就職の考え方も変わりますか?
 「若い人も大学を出たら、何らかのプロフェッショナルになるんだという気持で会社に入らなければならない。国際財務のプロになるとか資材調達のプロになるとか。そういう目的を持って会社に入って、もうこの会社の中では得るものがないと思ったら飛び出す。そして大学院でもう一回勉強し直して次の会社に入るとか。同じ会社に一生いるのが当たり前じゃなくなる。プロフェッショナルな自己の実現を図りながら、社会の中を動いていくという風になると思うんです、日本でも」

 「先進国はそうなっている。これまでも遅れて日本もだいたい同じになったから。例えば、米国で起こったことは、いずれ日本でも起こるんです。今まで何度もそうだった。日本でも一つの会社に定年まで居続けて、創業精神の無くなった企業で定型的な仕事を毎日同じようにやり続けるなんてことは、我慢ができなくなるはずです」

 ―どのような会社なら能力を発揮できるのでしょうか?
 「創業者がまだ活躍している会社だったら、事業がどんどん広がっている。だから面白さがあるんです。だからやれる。だけど歴史ある大企業というのは、もし創業の心、イノベーションに立ち向かう心を失ってしまったら、これ以上大きくなっていくことは難しい。企業の方が変われない場合には、個人はどんどん会社を移って、自分の専門性を膨らませていくという方向に、日本も変わっていくんじゃないですか」

 ―日本人だって本来は能力あるはずということですが、なぜその能力を発揮できていないのでしょうか。
 「能力はあるし、健康寿命が長いとか、チームワーク力があるとか、自分を律する精神があるとか、発展するための資産は日本にはあります。だから日本の中に居てそれができにくいのなら若いころに海外に飛び出し、20歳や30歳ぐらいの間に、いろんなところで仕事をして帰ってくれば、良いんですけど。そんな人も昔よりは増えてきたんじゃないですか。特に日本のスポーツ選手は海外にいっても通用しているでしょ。体力で劣ったとしても、チームプレイで秀でている。芸術家だって活躍している。いよいよ企業の番なんですよ。ビジネスパーソンだって外へ出て行って、そこで通用して帰ってきた人が日本の会社を立て直していけばいい。終身雇用も年功序列も実質的にやめて、仕事ができる人に給料をばんばん払って、会社をどんどん強くしていけばいい。新入社員が一斉に何十人も入って、皆そのまま勤め上げるという終身雇用というのは本当に日本だけで、世界的には特異なことなんですから」

 ―一方で若者は内向き志向になっているとも言われています。
 「そうですね。米国の大学の日本人留学生は少なくなった。韓国人、中国人、インド人ばかりになっちゃった。日本の中で暮らせてしまうから悪いんですよね。こぢんまりなら一生暮らせるから、そこで終わってしまう。日本だって留学生が多い頃は、この先日本がちゃんとした国になるかと心配していたんですよね。だから先進国へ行って学んで来ようと考えていた。今、先進国へ行っても持ち帰るものはないと皆思っていてね。決してそんなことはないんですけど。企業が稼ぐ力で付加価値を社会に還元するための組織体だということを学ぶためだけでも、行く価値はあります。エネルギー自給率が6%、食糧自給率が40%という輸入に頼らざるを得ない国なんだから、きちんと稼げる日本株式会社にするためにいろんなところでもっと頑張らなきゃいけない」

ベンチャーに期待、大企業は支援する側に


 ―もっと皆が海外へ飛び出て、イノベーションを起こす人材になるしかないと。
 「日本の中の企業の中でも、そういう創業の精神が残っている企業はあるから、そこで学んでも良いんです。しかし、強烈にその意識付けをしようとすれば、やはり海外に出て体験するのが良い。再び海外留学が必要な時代に戻っていると思います」

 ―大企業からイノベーションを起こすことはできませんか?
 「ものすごくしんどい。100年も経っているからね。グーグルみたいに創業社長がやっている会社とは全然違う。100年企業にもなると、社長が10人ぐらい代わっているわけです。そうすると最低限、現状維持で行けないかとやはり考えてしまいますよ。そういう大会社でもベンチャー的なことをしようと、これまでもあらゆる会社があらゆることを試みてきたけど、みんな途中のコスト成果評価の段階でつぶされてしまった。むしろ大企業は、ベンチャー企業への資金支援とか、M&Aによる支援とかに回る方が効果的だと思う」

 ―若者は大企業に行かない方が良い?
 「まあ、大企業が社会の安定を下支えしていることは否定できないから、それが大切と考える人々が大企業で働くということは否定はできません。その中で、イノベーティブな動きを行うことも大事ですし、若者がその動きの中心になることも大事なことです」

 ―日本の開業率の低さが気になります。
 「でも、最近の大学発のベンチャービジネスの増加とか、それらの脱皮のために資金を提供するベンチャーファンドの増加とかは大変良い方向性です。東京近辺ばかりではなく、地方にもたくさん動きが出ているのも良い傾向です。株式市場に上場して成長していくベンチャー企業の例は、諸外国比ではまだ少ないですが、確実に増えてきているので、今後に期待することに致しましょう」

【略歴】
 川村隆(かわむら・たかし)東京大学工学部電気工学科卒業後、1962年(昭37)日立製作所入社。日立工場長、電力事業本部長、副社長などを歴任。日立マクセル会長などを経て2009年、業績が悪化した日立製作所の経営再建に呼び戻され執行役会長兼社長に就任。2010年に社長を、2014年には会長も退任した。2017年6月に東京電力ホールディングス取締役会長に就任。1939年生まれ、77歳。北海道出身。


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明 豊

明 豊
10月31日
この記事のファシリテーター

この取材には立ち会わなかったが、川村さんと本格的に会話するようなってかれこれ8年くらいになる。ここまで大企業に対し厳しい物言いをするのは初めてだ。この記事を見て、日立社員や東電社員が奮い立たない方がおかしい。自分も来年50歳、まだまだこれからという気になると同時に、もうそれほど時間がない、という二つの思いが交錯している。

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生山 友也
生山 友也
01月06日
まったく、おっしゃる通りです。日立の強さを垣間見た気がします。
「前例はあるのか」「うまく行く確証はあるのか」「そんな必要があるのか」、そんな後ろ向きの話ばかりしているからダメなんです。失敗がそんなに心配なら「どうすればうまく行くか」をみんなで考えるべきなんです。競争であることを忘れてはいけません。
古川 英光
古川 英光
10月31日
とても刺激を受けました。昨年、大学発ベンチャーを始めましたが、私も来年50歳。あと1年で変われるところまで変わります!
  

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