ニュースイッチ

【特別インタビュー】未来学者・川口盛之助氏に聞く(2)ロボット

自律人型よりパワーアシストに可能性/特注ロボットスーツで広がる新ビジネス
 −ソフトバンクの「ペッパー」の人気が高いです。どう見ますか。
 「ペッパーが実現したもののうち、一番好きなのは『ツンデレ』であるということ。絶対服従のしもべではない。パーソナリティーを持った擬人格と付き合うのに完全な服従者を作るのが普通。そこにちょっとしたランダム性や予期不能性がない限り、ユーザーは飽きてしまう。製品への愛着とかを考えると、必ず機微みたいな入れていかなくてはいけない。その第一歩がツンデレ。ペッパーがツンデレエンジンというのを搭載したというのはある意味、たまごっちの再来というか、ランダム性、予期不能性を真面目な製品に入れた。普通の大企業としては英断だったと思う。自動車メーカーだったら、ああいうことをやるにはかなり勇気がいる」

 −今後のロボット市場での開発のポイントは何でしょう。
 「手術ロボットの『ダヴィンチ』に代表される遠隔操作系と、サイバーダインの『HAL(ハル)』のようなパワーアシストスーツや外骨格(エクソスケルトン)系が有望と見ている。日本ではロボットというと鉄腕アトムのように人工知能(AI)を搭載し、自律的に動く人型ロボットが究極の夢。ただ実現するのは大変だ。それに対し、HALは生体信号で制御しながらも、姿勢制御自体には人間本来の機能を使っている。その方がはるかに容易で、今の技術レベルのROI(投資利益率)を考えると、アシスト系が圧倒的に有利だ」

 −外骨格がなぜ有望なのですか?
 「箸でもハサミでも、ツールはなんでも身体性の延長になる。外骨格も完全に自分の身体の一部になれる。そこが同じパーソナルモビリティでも車輪系とは決定的に違う点だ。この市場は価格も性能も青天井。やればやっただけ評価される。トップアスリートが高い靴を買うように、足の裏がコンマ1ミリメートル違うだけで感覚が違う世界に金を払う人もいる。特注品を作れば確実に売れる」

 ―具体的にはどういう用途が考えられますか。
 「特注のスーツを着ることで、マイケル・ジョーダンのエアーダンクが味わえたり、タイガー・ウッズの300ヤードショットが楽しめたり、ウサイン・ボルトの走りを感じたり、といった製品アイデアもある。百発百中のアーチェリー用スーツもいいだろう。二足歩行ロボットに比べて、本人が姿勢制御をやるのでコンピューターリソースもあまりいらない。ただ完全自動はダメ。テレビゲームになってしまう。アシストの思想というのは自分がメーンで、自分の骨格のまま筋肉に無理をさせない動きで、タイガーに一番近づけるという点がよい。いわばハンディと同じ考え。ハンディ14と入れると、それを埋めるのにまずタイガーで3使うと、2はジャック・ニクラウスで使って、という風になれば面白い」

 「一番適用しやすいのがゴルフとアーチェリー。アーチェリーに特化したアシストスーツがあれば、弓を引いても疲れないし揺れないし、ターゲット補正をして合ったところで離せば絶対当たる。オリンピックの金メダリストの射る時のスタイルなどをダウンロードできるようになるかもしれない。一方でサッカー選手を実現しようとするとかなり大変。メッシになろうと言ったって自由度がありすぎる。フリーキックぐらいしかできないだろう」

 −ロボットスーツは一大トレンドになりますか。
 「最近、米国のシリコンバレーがロボティクスに注目しているのはそれが理由。彼らが狙うのは二足歩行の『アシモ』や米ボストンダイナミクスの『アトラス』ではなくて、HALのほう。人間にとって歩くことは非常に重要だ。アシモで歩行制御が大変なように歩くことは脳をすごく使う。単に歩くというだけでも脳を総動員している。ロボットスーツならば疲れないし、外出が難しい人でも健康維持に役立つ。段差がある屋内での移動もしやすいし、車いすのようにスロープやリフトなどのインフラ設備を必要としない。何よりアシスト系の良いところは本人の運動を促すという設計思想だ。自動車やバイクのようにボタン一つで作動する駆動系は、『メタボ生産装置』になる危険があるが、アシスト系は「ロコモ予防装置」になり得るからだ。介護福祉機器の設計思想とはユーザーの残存機能を最大限生かすというところにある。ロボットスーツにもその設計哲学が反映されるのであれば可能性は非常に大きい」

 <プロフィール>
 川口盛之助(かわぐち・もりのすけ) 
 1984年慶大工卒、米イリノイ大理学部修士修了。日立製作所を経てアーサー・D・リトルジャパンでアソシエートディレクター。13年株式会社盛之助(東京都中央区)を設立し社長。日経BP未来研究所アドバイザー。代表的著作の『オタクで女の子な国のモノづくり』で「日経BizTech図書賞」を受賞。同書は英語、韓国語、中国語、タイ語にも翻訳され、台湾と韓国では政府の産業育成の参考書としても活用される。兵庫県出身、54歳。

 ※次回は6月29日の週に公開予定
日刊工業新聞2015年06月22日 機械・ロボット・航空機面の記事に加筆
藤元正
藤元正 Fujimoto Tadashi
日本はロボットの生産・導入で世界一の「ロボット大国」。とはいえ、掃除ロボットや手術ロボットといった新しい分野では海外勢の躍進が目立つ。スマートフォンで日本が敗退したように、家庭用、サービス用のロボットも技術だけでは市場獲得が難しい。その点、発売わずか1分で完売した「ペッパー」の製品づくりやビジネスモデルから学ぶところは多い。街なかや一般家庭にまでロボットが普及する時代を迎え、ニーズを先取りした製品や独創的な発想がより重要になる。

編集部のおすすめ