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M&Aラッシュの半導体業界、次の大型案件は?

低成長と微細化巨額投資、さらに買収が買収を呼ぶ構図に
M&Aラッシュの半導体業界、次の大型案件は?

インテルのサイトから

 ガートナーが3月末に発表した2014年の半導体ベンダーの市場シェア(金額ベース)は、(1)米インテル(2)韓国サムスン電子(3)米クアルコム(4)米マイクロン(5)韓国SKハイニックス(6)米テキサス・インスツルメンツ(7)東芝の順。10位にはルネサスエレクトロニクス、14位にソニーが入っている。

 特にサムスン、SKハイニックスは11-13年まで3年間、DRAMの設備投資を絞っており供給不足の状態が続き、稼働率も価格も高止まりしていた。DRAM市場だけでも、13年は前年比33%増、14年が同32%増と売り上げの伸びが大きく、15年も同7.9%増を見込む。3年前は価格が低迷していたので、ようやく戻したとも言える。ただ、ここに来て製造能力増強のため、各社とも設備投資を始めている。次は過剰供給が想定され、16年が転換点になる。

 台湾メディアテックの躍進も目立つ。同社のスマートフォン向けプロセッサーではハイエンド機種向けでの差別化、ミドルエンド機種向けでの競合製品投入、そして中国独自の第3世代方式「TD-SCDMA」市場でのシェア獲得がその成長の理由である。一方、モバイル分野トップのクアルコムはスマホのハイエンド機種向けに強いが、メディアテックなどの参入によってミドルエンド機種向け市場での競合が大きくなっている。

 これに対して、日本企業はスマホの成長に乗り切っていない。それでも、東芝はNANDフラッシュメモリー、ルネサスはマイクロコントローラー(MCU)、ソニーはイメージセンサーと選択と集中が進み、存在感を発揮している。

 3月にはオランダのNXPセミコンダクターズによる米フリースケール・セミコンダクタの買収が発表された。これで売上高100億ドル以上の企業が誕生することになる。

 さらに5月末には、シンガポールと米国に拠点を置くアバゴ・テクノロジーズが、半導体業界で過去最大規模となる約370億ドルで米ブロードコムを買収。続いて米インテルも6月1日に、米アルテラを167億ドルで買収することで合意にこぎつけたと発表した。こうした例が引き金になって、M&A(合併・買収)が進み、業界地図が大きく塗り変わる可能性も出てきた。

 経営統合の背景にあるのは利益の出せる製品ポートフォリオの拡充あるいは半導体のノード(線幅)の微細化への対応のために、強い財務基盤が必要とされるためだ。

 今年は、半導体の集積度が2年で倍になるという「ムーアの法則」が提唱されてから50年に当たる。最近では集積度合いのスピードが鈍り、ムーアの法則が成り立たなくなっているのではないかとの見方もあるが、ガートナーでは10ナノメートル(ナノは10億分の1)以下でも集積化が続くと見ている。80年代のように大幅な成長は期待できないにしても、2019年まで年4-5%の伸びが堅実に続いていくだろう。
 (文=ガートナージャパンリサーチ部門リサーチディレクター・國場将生氏)

 <「次はTI」との観測も>
 半導体業界のM&Aが止まらない。2015年に入ってもドミノ倒しのように大型買収案件が次々と決まり、今年半年での買収額の合計はすでに797億ドルに達している。半導体分野としては2000年に記録した1155億ドルを除き、すでに現段階でこれまでのどの年の買収額をも上回っているという。

 では、次に動くのはどこか。ロイターは関係者の話として、米テキサス・インスツルメンツ(TI)が大型買収を検討していると伝えている。TIは2011年に老舗の米ナショナルセミコンダクターを65億ドルで買収して以来、最近のM&A合戦には一歩距離を置いた格好だ。

 とはいえ、同社は2014年末、米マキシム・インテグレーテッドを相手に買収交渉に臨んだという話もある。だが、マキシムが売却しない方針を決定したため交渉は白紙に。さらに買収対象と見ていた米フリースケール・セミコンダクタをめぐっては、167億ドルという巨額M&AでNXPセミコンダクターズに先を越されてしまう。

 TIは音声や光、温度といったアナログ信号をデジタルに変換するアナログ半導体で強みを持つ。スマートフォンやIoT(モノのインターネット)でもカギとなる半導体だ。急速な成長を遂げるライバルのNXPに対抗するためにも、買収により製品系列を強化し、企業規模を拡大しておく必要があるというのだが。
日刊工業新聞2015年06月03日 電機・電子部品・情報・通信面「テクノロジウオッチ」ーに加筆
藤元正
藤元正 Fujimoto Tadashi
スマートフォンやウエアラブル機器の普及、IoT市場の台頭で半導体需要は大きく伸びるのではと思いきや、ガートナーの予測によれば14−19年の年平均成長率は1けた前半。競争が厳しく利幅が薄いうえ、微細化に対応するための設備投資がベンダーに重くのしかかる。必然的にM&Aに傾かざるを得ないという力学のようだ。果たして、こうした国際的なM&A合戦に日本の半導体メーカーも参戦することになるのかどうか。

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