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ひとり暮らしの高齢者向け緊急通報装置、自動車や家電にも適用拡大へ

カレアコーポレーションのバイタル感知センサー・システム「YORI・SOI」
ひとり暮らしの高齢者向け緊急通報装置、自動車や家電にも適用拡大へ

ドップラーセンサーでバイタルデータを取得し、脈拍や呼吸、体の動きまでも解析する

 脈拍、呼吸などの生体情報(バイタルデータ)を遠隔から測定する-。富山市のベンチャー企業である株式会社カレアコーポレーションが開発したセンサーが、介護をはじめとしたさまざまな分野に新ビジネスを創造しつつある。まずは「住人が病気や事故で倒れたのを検知し、即座に医療機関へ自動通報する」仕組みの実現に向け、介護施設での運用から商用化が始まった。だが、人間の健康状態を容易に把握するこの技術の恩恵は、介護や医療にとどまらない。自動車や家電にも革新をもたらすかもしれない夢のセンサーの可能性を探った。

遮蔽物の先にいても、指一本の狭い範囲でも測定可能


 「このドップラーセンサーから発射した電波と返ってくる電波の違いをみている」―こう語る吉田一雄社長が手に持つのは非接触・無拘束型バイタル感知センサー・システム「YORI・SOI」(ヨリソイ)。直径6センチメートルほどの円形で半透明の装置が、遠くにいる人間の脈拍や呼吸、体の動きなどを調べられるセンサーだ。

ドップラーセンサー

 「救急車のサイレン音は自分に近づく時は高くなり、遠ざかると低くなる」という現象で知られる「ドップラー効果」を応用する。音波や電波などの波は発生源や観測者が動いていると波の周波数もその動きに応じて変化する。この現象をもとにドップラーセンサーは電波を計測の対象物に発射し、反射されて戻ってくる電波の周波数の違いを調べて動作を測る。ヨリソイはこれを人体に用いる。心臓や肺の動作に連動する血管の動きを捉え、そこから脈拍や呼吸、体の動きまでをも解析するわけだ。
 ドップラーセンサーは自動車の速度計や船舶に搭載するソナーなど、速さや動きを測定する機器で既に活用されている。ただ、動きの大きいものや速度が速いものを捉えるのには向いているが、動きがわずかなものや速度が遅いものは、発射した波と反射した波の差異を区別しにくいため苦手だった。ヨリソイが画期的なのは、動きが微弱で速度もわずかな血管を、ドップラーセンサーでも計れる独自の方法を編み出し、実用化したことだ。
 装置は壁のような遮蔽物の先にいる人でも、電波が通るので測定できる。装置の検知範囲は水平方向に70度、垂直方向に30度に限られるが「範囲の中に全身が入る必要はなく、指一本入っていればいい」(吉田社長)。よってベッドの下に置いておき、就寝中のバイタルデータを取得したり、風呂場に設置し、入浴中の人のバイタルデータを体がお湯から出ている部分から取得したりといった使い方も可能だ。

吉田一雄社長

 吉田社長がドップラーセンサーでバイタルデータを取得するアイデアを思いついたのは入院時のこと。もともとは以前に在職していた会社でひとり暮らしの高齢者向けの緊急通報装置の技術研究をしていた。その時に開発した自動通報システムは3万人の家庭に設置されるヒット商品にまでなった。これは屋内を赤外線のセンサーで人体の熱をチェックし、倒れた人を感知する仕組みだった。ただ、熱で感知するので浴室では使えない。また、人間とネズミの区別が付かなかったり、ストーブやコタツの熱で誤動作したりする欠点を克服できなかった。
 「これだと通報が漏れる場合がどうしても出てくる。なんとか解決したい」と考えていたが、病気で倒れ、退職と入院を余儀なくされる。しかし、「世話をしてくれた医療関係者への恩返しの思いや、前の会社でやり残したことにけじめをつけたいとの思いから起業を決意した」。
 病床にあった時も本や論文を読み、研究を欠かさなかった。そして、ドップラーセンサーを使って課題を解決する方法を探り当て、退院後、株式会社カレアコーポレーションを設立。ヨリソイの開発に邁進した。

事業化を手助けした日本政策金融公庫の「資本性ローン」


 とはいえ、設立当初は会社に収入はほぼなく、厳しい資金繰りに追われた。救いの手を差し伸べたのは、主に中小・零細企業向けの融資を取り扱っている政策金融機関である日本政策金融公庫だ。新規性のある技術を持つ事業者などが利用できる「挑戦支援資本強化特例制度(資本性ローン)」を同社に適用。本制度は、「無担保・無保証人」「期限一括返済」「業績に応じた金利設定」といった特徴がある。また、本制度による借入金は金融検査上自己資本とみなされるなど、ベンチャー企業などが利用しやすい制度設計となっている。これにより、当面の運転資金を確保した同社は、関連技術の研究開発に特化し、提携先が製造と販売を担う体制を構築。そして、15年4月にヨリソイを完成させ、同年8月に神奈川県内の高齢者介護施設2棟に自動通報機器として約80台納入し、試験運用を始めた。
 赤外線センサー式の緊急通報装置の弱点解消という目的達成にめどをつけた吉田社長は、ドップラーセンサーの市場をさらに広げる新たな用途も見据えている。例えば、自動車の安全運転システムにおけるドライバーの呼吸異常の検知に用いたり、室内にいる人間のバイタルから、最も快適な温度に制御するエアコンの開発に生かしたりする。実際、自動車関連メーカーや電子部品メーカーからは既に引き合いがあり、こうした製品向けのセンサーにカスタマイズする協議を進めている。

 来る10月25日(水)には、虎ノ門ヒルズ(東京都港区)で開催される、大企業とベンチャー企業のマッチングの場である「日本公庫ベンチャーピッチ」に参加。これで新たなビジネスパートナーが見つかれば、センサーの裾野のさらなる拡大も期待される。介護・医療サービスの高度化や、次世代製品の誕生につながるセンサーは、開発期から導入期へと新たなステージに入ろうとしている。

日本政策金融公庫の資本性ローン:https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/57.html
日本公庫ベンチャーピッチ:https://www.dreamgate.gr.jp/InnovationLeadersSummit/pitch_jfc.php
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