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なぜ、沖永良部島は「お金の自足」を選んだのか

「第8回沖永良部シンポジウム」で地域金融導入を決定
なぜ、沖永良部島は「お金の自足」を選んだのか

島の子どもたちが描いた絵の前で、島の未来を議論

 「第8回沖永良部シンポジウム」が奄美群島の一つ、鹿児島県沖永良部島で9月に開かれた。テーマは「子や孫が大人になったときにも光り輝く美しい島つくり」。

 これまで島の資源の活用や島民の自給自足による活性化について議論と実践を重ねてきたが、今回は新たに地域金融による「お金の自足」について島内外の参加者で議論した。シンポジウム内で「ローカルファイナンス研究会」を開催。島の活性化に向けた具体的事業が立ち上がる中で、島にとって地域金融の仕組みが必要との結論に達し、2018年9月の設立に向けて活動していくと宣言された。

 市民や民間からの寄付、また社会貢献や環境維持に主眼を置く社会的投資をベースとした地域金融システムの構築を図る。かつて島にあった「イイタバ(結)」と呼ばれる相互扶助の仕組みも踏まえつつ、現在のグローバル金融システムに限界を感じている部分について、切り替えていく方針とした。

 地域金融運営の先駆けで、シンポにも参加したプラスソーシャルインベストメント(京都市上京区)の野池雅人社長からは、寄付金の一部を運営組織の経費に充てられる点や、個別具体的な事業への寄付だけでなく、組織自体へ寄付する方法があるとの助言を受けた。

 まずは母体となる財団法人の設立と、その基本財産となる300万円の調達が必要となる。引き続き、研究会では300万円を集めるにあたり、何人から寄付を集めるべきかや、メンバー選定などについて話し合っていく考え。研究会のファシリテーターを務めた古村英次郎さんは「島の力を集結させましょう」と会場に力強く呼びかけた。

 研究会後に実施した、古川柳蔵東北大学准教授をファシリテーターにしたパネルディスカッションでは、ソーシャルビジネスの認識や、地域基金の設立後の具体的運営に議論が及んだ。

 地域での「温かなローカルマネーフロー」を提唱する、場所文化フォーラム(東京都千代田区)代表幹事の吉澤保幸氏は「沖永良部で行おうとしているのは『自立自足』。自治の精神でそろばんを弾く。このそろばんこそがソーシャルビジネス。そこにいかに温かなお金を流せるかだ」と提言。

 また野池氏は「島外からも寄付できる。遠くにいるからこそ寄付する人もいる。組織は充実していなくても、寄付者とのやりとりを含めてコミュニティー財団の役割になる」とアドバイスした。

 終わりに古川氏は「ビジネスは一人ではできない。新しいファイナンスでスピードアップも可能になる。仲間が増えると関わりも増える。それが進む方向だろうと理解できた」と締めくくった。

 シンポジウムを主催したのは、東北大学名誉教授・石田秀輝氏を塾長とする「酔庵塾」など。石田氏はINAX(現LIXIL)取締役CTO、東北大教授などを歴任後、14年から沖永良部島に移住。酔庵塾を立ち上げて、島民を中心に行政や島外の識者らとともに島の活性化に取り組んでいる。

〈シンポジウムの基調講演抄録は次ページ〉
日刊工業新聞2017年10月4日
三苫能徳
三苫能徳 Mitoma Takanori 西部支社 記者
沖永良部島は西郷隆盛が流され、「敬天愛人」に目覚めたとされる島です。 私がシンポジウムを取材するのは2回目。この1年間だけ見ても、前回提案された課題解決策がきちんと実現しているなど、着実に取り組みが進んでいると感じます。島が持つ自然の魅力そのままに、何よりも本人たちが楽しみながら自然体で進められているところに好感を持ちます。一方、地域金融というツールを得ることで、事業性というシビアな部分を考えざるをえない部分も出てきます。“楽しさ”とのバランスをうまくとりつつ、さらに魅力が増した沖永良部になることに期待します。

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