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「企業の迫力に驚き」―最大の盛り上がりを見せる産学連携のキーワードとは

「組織対組織」「本格的」「大型化」
 大学改革の契機となった国立大学法人化から13年超。第4次産業革命「ソサエティー5・0」に向けた官民連携などを背景に、各大学は前向きに競い合う様相となっている。産学連携は法人化以降、最大の盛り上がりだ。「世界トップクラス」「地方貢献」といった区分けも、各大学の特性を引き出す機運を高めた。社会的存在として未来を開拓する大学の姿を見通す。

意気込む企業


 「(事業化シーズは)『もっとないのか』と大手企業の社長に詰め寄られた」。東京大学の技術移転機関「東京大学TLO」の山本貴史社長は、産学連携にかける企業の迫力に驚きを隠さない。

 東大TLOは、大学発ベンチャー(VB)を含めた9案件をこの企業に2時間かけてプレゼンテーションした。事業の環境変化への危機感は強く、この日のプレゼンでは6件の実施を検討することが決まった。

 変化が早く先行きが不確かな時代となり、企業だけでは見通せない新産業創出に向けて、ゼロから1を生む大学への期待が高まっている。「産業界から大学などへの投資を3倍に」という官民合意の目標が2016年春に出され、産学連携は大転換期を迎えている。

 須藤亮産業競争力懇談会(COCN)実行委員長は「産学連携は数年前まで企業の社内でも経済団体の集まりでもあまり話題にならなかった」と振り返る。それが「今では営業担当者も口にし、大学よりも浸透している」(須藤委員長)と驚く。

個人任せ反省


 今の産学連携は「組織対組織」「本格的」「大型化」がキーワード。産学とも研究者個人の連携に任せた少額の共同研究では、大きな成果が出ないとの反省に基づく。

 さらに文科省は産学連携で得た外部資金を大学改革に活用することももくろむ。産学共同研究に参加する博士学生の経済支援や、運営費交付金減の対策として外部資金を活用することを狙う。

 文科省は18年度の新規事業で「オープンイノベーション機構」を約10大学に設置。同機構が大型産学連携プロジェクトを設計して企業へ売り込む計画だ。大学が企業の事業化シナリオに沿った提案をし、1社あたり年数千万―数億円を引き出す。民間出身者のプロジェクトリーダーに、従来の2倍以上の年収2500万円も認める。

どう引きつける


 ただ懸念もある。そもそも大学は論文主義。物質・材料研究機構の橋本和仁理事長は「潤沢な研究費がある優秀な研究者を、論文になりにくい産学連携へどう引きつけるかが課題だ」と指摘する。

 物材機構は化学と鉄鋼の2領域で、三菱ケミカルと旭化成、新日鉄住金とJFEスチールなど競合企業を集めた共同研究の仕組みを作った。優秀な研究者を引きつける仕掛けとして、プロジェクトのミッション研究と同じ時間を理事長裁量経費による自由発想型の研究に費やせる。

 さらに大学には研究だけでなく教育の使命もある。「解は一つではない」(橋本理事長)。各組織の個性に合わせて、成果を実現していく仕組みの設計が今後、求められる。
日刊工業新聞2017年9月19日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
東大TLOの営業スキルの高さはよく知られるが、記事中の「9件中6件で実施検討を決めた」というのは、実は製造業でない大企業だ。 ネットであらゆるビジネスが変容するような時代に、畑違いの業種も大学の技術に熱視線を送る。 国立大学法人化前から産学連携を見ている私も、エポックになる動きを感じている。

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