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気鋭のベンチャーが仕掛ける「リモートワーク労働革命」

キャスター中川代表インタビュー「今の働き方では企業はもう持たない」
気鋭のベンチャーが仕掛ける「リモートワーク労働革命」

キャスター代表の中川祥太氏

 約170名の従業員全てがリモートワークという新しい働き方を進めるキャスター(東京都渋谷区)。会社を設立してわずか3年、オンラインのアシスタントサービスで急成長している。昨年には「労働革命で、人をもっと自由に」という企業ミッション・ビジョンを掲げた。なぜ革命なのか。代表取締役の中川祥太氏が目指す“労働のカタチ”とは。

―労働革命と聞くと少し堅い印象を受けます。あえてその言葉を使った意味は。
 「僕たちのような事業をしていると、どうしても『女性の味方』『育児の味方』というようなイメージを持たれてしまいます。そんな意図はまったくないです。現実問題として人手不足が深刻化し、10年後には労働人口が約600万人足りなくなるという試算がある。従来の労働市場の“大きな路線”から外れていた人材が必要となっているわけです」

 「もともと労働自体が労働集約になったのは、生産効率性が高かったからです。今はインターネットが発展したことで、どこにいても仕事ができます。つまり、労働における移動時間を削ることができる。労働者不足の状況で、生産効率を高めるためには、明らかに無駄な移動のコストを削る必要があります。分散型の労働市場に最適化しなければならない。リモートワークだけじゃなく、法規制も含めて全て変わる。そこにコミットしていきたいという思いから、労働革命という言葉を使いました」

―労働市場が変わってきているという実感はどのあたりからですか。
 「今年に入って問い合わせの数、求人応募数が激増しました。1年前に比べ売上高で5倍、問い合わせ数だと約20倍でしょうか。この数字は自分たちがどうこうして達成できるレベルではありません。明らかに外部環境が変化しています」

 「さまざまな統計をみると、昨年末ぐらいに企業ニーズが人材市場側のキャパシティを超えたことが分かります。新しい働き方を国が旗振るだけでなく、企業も本当にお尻に火が付いた。人材確保で、文化に合わないとか、マネージできないなどと言っていられない段階に突入したということです。おそらく今までの働き方は終了するでしょう。『そんな働き方もあったんだ』と言われる時代がすぐ近くにまで来ています」

従来のクラウドソーシングに対する問題意識


―そもそもなぜリモートワークに興味を持ったのですか。
 「既存のクラウドソーシング、人材派遣会社への問題意識です。僕は前職でいくつかのクラウドソーシングの会社と取引をさせていただきました。クラウドソーシングの現状を見ていくと、時給換算100円程度の案件が普通にあることに驚きます。ワーカーへのディレクションも満足にできない。モチベートして、チーム化することもできない。彼らは人材を集めるだけ集め、ただマージンを抜いているだけでした」

 「せっかく人材を集めているのにもったいないですよね。新しい働き方とは到底言えない。それなら自分がリモートワークのビジネスを“ちゃんと”展開していこうと。そう思ったのが起業のきっかけです。キャスターの案件は時給換算1000円、従業員の約70人に対しては20万円以上の給与を払っています」
キャスターのリモートワークは20~40代の女性が中心

トップダウンではなく、個人が意思決定


―従業員170名がリモートワークとなると、経営の方法も変わってくると思いますが。
 「段階的に『ホラクラシー経営』に移行しています。ホラクラシーとは、経営の意思決定をトップダウンで行うのではなく、組織全体に分散させる経営方法です。日本ではダイヤモンドメディアさんが先進的に取り組んでいます。役職は取締役とマネージャーのみで、とにかくフラットな組織。社員に対して、経営数値を全て開示しています」

―なぜホラクラシー経営にしようと?
 「僕たちみたいな弱小のスタートアップは基本的に赤字で経営しています。赤字の数字を僕だけが知っていて、他の社員たちが知らないと、『何で給与を上げないの?』『業績は良いのに何で?』とか疑問が出てきてしまいます。全員が経営数値を知っていると、会社の状態を共有できて、自分たちの給与がどう変動していくかを理解することができます。会社は僕だけのものじゃなくて、みんなのもの。その責任をある程度、共有してもらいたい」

 「会社は一人だけでは回りません。いろんな人がいろんな目的を持って参加しています。場所、国籍、性別、これからますます組織は多様性を増していくでしょう。トップダウンでコントロールするより、できるだけ分散したコントロール下で、細かく最適化していく経営の方が時代に合っている。特に自分たちの会社はリモートワーク中心です。社員一人一人が自己評価・自己采配をしていかなければならない。ホラクラシー経営との親和性が非常に強い」

―働き方や経営管理は国民性にも左右されると思いますが。
 「文化とかではなくニーズですね。米国でリモートワークが先行したのは、単純に国土が広く移動が大変ということも大きい。日本も人口減少に突入して、リモートワーク、フリーランスの活用がニーズとして顕在化する。その時、新卒一括採用で人事制度を作っている大手企業は、その状況に対応できない。経営自体がまるっきり転換することはないと思いますが、部分部分で徐々に変わっていくはずです」

-中川さん自身、サラリーマンをしていて窮屈だったのですか。
 「不満に思っていることがありました。日本の社会は、いわゆる“普通”と決められたルートから外れた人に対して、不必要に厳しい。働き方でも同じです。『朝早く出社する社員が偉い』みたいな風潮ってどこにでもありますよね。遅く出社するのがまるで悪いことのように扱われる」

―そういう常識は変えていけるのでしょうか。
 「これからは、『自由な働き方』を『朝早く出社する』以上の“当たり前”にしてしまえばいい。そのために、リモートワークで働いている人員を、本社側で働いている人員よりも多くする。同調圧力を働かせるかが重要です。新しい働き方を実践する人が、多数側にならないと変わらないでしょう」

―伝統的な企業、大手の企業も変わっていきますか。
 「本当に優秀なトップがごりごり変えていく。もしくはトップが弱すぎて、社員が自分たちで企業を守ろうとすれば変わるのではないでしょうか。危機感は皆さん感じているはずなので、変わっていくと思いますよ」
 

商売好きの三方良し


―中川さん自身のこれからの夢は。
 「特にこれといった夢は持っていないです。僕は関西人なのでもともと商売自体が好きなんです。目の前に自分のやれることがあって、それが“三方良し”ならチャレンジしたい。ただ今は人材市場。この巨大な市場でやれることはまだまだ残っています」

 「アジアの他の国でも日本と同じようなニーズが顕在化しています。アジアの多くの国では、交通インフラよりも、情報インフラの方が先に整備が進んでいますよね。労働人口減少に加えて、インフラの状況からリモートワークが労働の中心となってくるはずです。どこかのタイミングで外国にも事業を進出させていきたいと思っています」
(聞き手=明豊、構成・大森翔平)
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明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
最初に中川さんに会ったのは1年ぐらい前。えらい自信満々で話す人と思っていたが、今回改めてインタビューしてみて、いろいろ葛藤や苦労があったことが分かった。それをほとんど表情や言葉に出さない。ほんとに新しいタイプの経営者。

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