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産学連携で生まれた特許、実用化16%。新契約モデルは有効活用につながるか

文科省、“包括同意”でが柔軟な仕組みづくり
 文部科学省は、産学共同の研究成果でも、貢献度によって大学単独特許になるなどの新たな契約モデルを試行する。共有特許では大学発ベンチャー(VB)設立が難しいといった課題のほか、企業の防衛特許に使われて実用化していないなどの問題解決が狙い。当初は“包括同意”契約を結び、状況に応じ柔軟に対応するといった仕組みを考えている。

 産学共同研究の成果は多くが共同出願・共有特許となる。背景には、双方の研究への寄与分を確定せず、特許費用を企業が負担する慣習がある。日本の大学が保有する特許は、共有特許が6割を占めているという。
 

 しかし相手企業が実用化しない場合、大学は他企業へのライセンスやVB設立を希望しても、企業同意が得にくく特許活用ができない課題がある。産学連携プロジェクトで生まれた最重要特許であっても、実用化は16%という調査があり、阻害要因をなくす必要がある。

 文科省では柔軟に対応できる包括同意の契約を検討している。成果によって、「寄与の大きい産学どちらかの単独特許にする」「企業の目的がデータ取得などであれば、第3者へのライセンス可とする」「企業が他社ライセンス不可の独占実施権を主張する場合、不実施補償として大学に対価を払う」などが選べるイメージだ。

 まず産学1対1の契約モデルを一部大学で試行。次いで1対多のコンソーシアム型でも検討していく。

国立大のベンチャー株取得、政府が条件緩和へ


 政府は国立大学と国立研究開発法人が株式などを対価として取得できる条件を緩和する。大学発ベンチャー(VB)などから施設使用や技術指導の対価としても取得できるよう、対価の範囲を拡大する。取得した株式についても長期保有できるようにし、国立大などが売却益を得やすい仕組みとする。国立大などが財源確保に向けて、株式を戦略的に活用できるようになる。
<国立大学は文部科学省の2017年度中の通知で緩和>
日刊工業新聞2017年7月27日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
政府・文部科学省は大学によるイノベーション推進に向け、産学連携の新手法や規制緩和をいくつも打ち出している。これもその一つだ。産学共有特許が「企業の防衛特許にされてしまい実用化されない」という点は以前から問題視されていた。加えて新しいのは、「大学発ベンチャー(VB)設立を後押しするうえで、 特許は大学単独にしておくほうがいい」という観点だ。大学発VBへの期待がここ数年、急伸していることを背景に、産学共同研究の新契約モデルで、昔からの課題解決もVB推進も同時に図るという工夫に注目したい。

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