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3年間で9000億円、国の研究開発投資に「産学」をどう引きつけるのか

JST・濵口理事長に聞く「研究開発に基礎や応用、実用化という境界はない」
3年間で9000億円、国の研究開発投資に「産学」をどう引きつけるのか

濵口道成氏

 内閣府は政府研究開発投資の対GDP比1%の実現に向けて、公共事業費などの現行予算の取り込み目指す。現行施策に技術導入予算を追加し、新技術の社会実装を加速する事業に転換させる。2018年度予算の編成に向け、各省庁から施策を募っている。
 目標投資額は20年度に補正予算を含めて6兆円。毎年3000億円、3年間で9000億円増を目指す。だが目標の3000億円は科学技術振興機構(JST)の業務経費1079億円と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の業務費1464億円を合わせた金額よりも大きい。
 社会実装は研究開発よりも進捗管理が難しく、技術全般をマネジメントできる組織は限られる。現行施策を運用する組織と技術戦略にたけた組織が運用していく必要がある。JSTの濵口道成理事長にイノベーションマネジメントについて聞いた。

 ―単年度3000億円、3年間で9000億円の研究開発投資の増額が実現すれば、巨大な技術マネジメント需要が生まれます。
 「内閣府の転換施策についてはまだ文部科学省と話し合えていない。まだ各省の案がそろう前で情報がない。ただ科学技術イノベーションを志向するならJSTが貢献できる部分は大きい」

 「例えば農業のロボット化や情報化のコア技術は機械やデータ科学になる。もともと所管する省庁が苦手な分野ともいえる。プロジェクト途中の方向修正など、進捗に応じて研究テーマを入れ替えるには、異分野の研究を俯瞰(ふかん)し、研究者にアクセスするネットワークが必要だ。また身内だと研究者に厳しいことを言いにくい。科学技術全般を扱えるのはJSTとNEDOくらいだろう」

 ―企業の現場と大学の研究室が密に連携することが大型研究のトレンドになりました。
 「本来、研究開発に基礎や応用、実用化という境界はない。研究者の分業や、予算を管理するための区分けはあまり意味がない。実用化に向けて開発と基礎研究は同時並行で進めるものだ。事業の競争力に関わる領域は企業、基盤的な領域は大学などが担い、大・小複数のプロジェクトを走らせ結果をみながらテーマを入れ替える」

 ―基礎は基礎、応用は応用でテーマを束ねて、サイズごとに管理してきました。
 「基礎・応用・実用など、段階的な直線モデルではイノベーションは起こらない。時代に合った投資管理機能が必要だ。イノベーションを目的に研究テーマを束ねると、中央研究所を持たない企業にとって、大学やJSTは自社研究所のように付き合える」

 「企業が抱えられる技術者は得意分野に偏ってしまう。大学には多様な研究者が在籍し企業のリソースを補完することができる。サービス業界は技術者こそ少ないが、技術開発に投資すればプラットフォームビジネスに転換できる。重要なのは多分野、多組織の研究者を束ねてプロジェクトを進めるマネジメント力だ。特定の有力大学だけでなく、全国の大学から有力研究者を引き付ける産学連携のプラットフォームが求められる」
(聞き手=小寺貴之)
日刊工業新聞2017年7月10日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
 特定の社会課題やイノベーションを目標に投資配分やプロジェクトを管理するのはJSTよりも民間企業が得意とするところです。JSTにとっては大きなチャレンジになります。一応、実績はあります。内閣府のSIPやImPACTという大型予算はJSTやNEDOなどが管理運営してきました。濱口理事長は「大学の先生がトップを務めるプロジェクトよりも、民間出身者をトップに据えたプロジェクトがとうまくいっている」と振り返ります。  大学人にとっては悔しいところですが、現在は企業出身者の方が技術俯瞰やマネジメントに優れるということでしょうか。目標達成に向けて研究者やテーマを入れ替え、良い意味で無慈悲に多機関の人材を束ねる能力が「官」や「学」でなく「産」で培われていたのは納得です。内閣府のイノベ転換事業では、さらに現場の声が強くなります。「官」や「学」が「産」なみのプロジェクト遂行能力を身につけられるかどうか。実現すれば科学技術立国としてレベルアップできるはずです。

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