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ボタン電池で酸素を測る、新しい理科実験の姿

夏休みの自由研究にいかが?
ボタン電池で酸素を測る、新しい理科実験の姿

これが自作した理科実験用酸素センサー。シンプルな構成は見ての通り

 私たちの身の回りに絶えず存在する酸素。生物や植物の生命維持のために欠かせない物質だが、その重要性や特性は知識として知っているつもりでも、意外と本質を知らないことが多い。それは、酸素が無味無臭かつ無色透明で目に見えないため、日常生活の中でその存在を実感する機会が少ないからだろう。

 そんな酸素について学校教育の場では、小学校6年の学習指導要領で「燃焼の仕組み」と題し、ものが燃焼することで酸素が減少する様子を「気体検知管」なる実験装置を使って学ばせている。

 ただ、気体検知管は1本当たり約500円(吸引器が別に必要)とコストがかかる上、検知のレスポンスが遅く、ガラス製のため破損の心配があり、実験後の廃棄も面倒など扱いにくい面があった。

 そうした中で、東京工業高専の高橋三男教授は空気亜鉛電池の発電原理を応用し、大気中の酸素濃度を測る仕組みを開発した。すでに、学習教材メーカー各社から酸素濃度測定センサーとして1万円前後で発売されている。

1個200円程度で主に補聴器の電源に


 空気亜鉛電池はボタン電池の一種。1個200円程度で、主に補聴器の電源として利用される。正極で空気中の酸素と反応することで発電するが、酸素濃度が高いときにより多くの電流が流れる性質に着目。外部抵抗値を小さく設定することでより多くの電流が流れる仕様にした結果、酸素濃度を感度良く検知することが可能になるという。

 さらに、可変抵抗を設けて酸素濃度(たとえば20.9%)と電圧値(たとえば20.9mV)の絶対値を揃えることで、テスターなどの表示媒体で換算なしに瞬時に読み取れるようにした。

 ビニール袋の中に数十秒ほど呼気を溜め、その中に酸素センサーを入れると、瞬く間に数値は20.9%から18%まで下降。変化の様子が即、デジタル表示されるわかりやすさが特徴だ。
コオロギだって呼吸をして、酸素を消費している

「誰もが原理を理解でき、安全に扱える」


 小学校から高等学校まで幅広い用途を想定し、「誰もが原理を理解でき、安全に扱えることにこだわった」と高橋教授は語る。実験の後処理や修理が容易で、簡単に保守部品が手に入り、コンパクトなサイズかつ頑丈であることは必須条件だった。条件に合うようにさまざまな試行錯誤を繰り返した結果、最終的に空気亜鉛電池方式にたどり着いたという。

 空気亜鉛電池はそもそも、ボタン電池として長時間さまざまな機器の電源として使えるように開発されたもの。酸素センサーを用途として開発されたものでは、もちろんない。ところが、空気亜鉛電池が持つ特性を調べていくと、酸素センサーとしての機能を兼ね備えていることが次第にわかってきた。ただ。こうした用途の場合はより多くの電流が流れ、電池寿命が極端に短くなる。

 そんな原理を理解してもらおうと、高橋教授は6月、理科授業で酸素センサーを活用する手引書にまとめた。「身近に入手できる空気亜鉛電池でも、工夫次第では操作が簡単で、安全性が高く、安価な理科実験に適した酸素センサーに応用できる例を伝えたかった」と胸を張る。
多くの先生や子どもたちに使ってもらいたいと夢を語る高橋教授


 現在、理科教員に向けた普及啓蒙の取り組みも始まっており、各地で研修会の実施が相次いでいる。電池と簡単な回路、テスターがあれば構成できるため、教員研修で酸素センサーを自作した後に測定を行うプログラムに人気が集まっている。「これをきっかけに多くの子どもたちが酸素センサーで測定し、専用の『マイセンサー』で自由気ままに実験してくれることを望んでいる」と高橋教授は夢を口にする。

 文部科学省が推進する「考える理科の授業」を実現する、画期的なツールの1つとして注目され始めた空気亜鉛電池式酸素センサー。授業のみならず夏休みの自由研究への適用など、活用の場は家庭にまで広がる可能性がある。今後の理科教育を変える存在になると言っても過言ではない。

「『酸素が見える!』楽しい理科授業 ~酸素センサ活用教本」
(高橋三男著 日刊工業新聞社で発売中)

酸素センサー活用の手引きをまとめた書籍

誌面からも実験の楽しさが伝わってくる
矢島俊克
矢島俊克 Yajima Toshikatsu 出版局書籍編集部 編集
人間の呼吸で酸素濃度がこれほどビビッドに変化するとは知らなかった。可視化のインパクトは大きく、数値として簡単にとらえられるようになり、子どもたちの関心は高まるに違いない。玩具の延長のような感覚で、簡単に安く安全に測れる理科実験用酸素センサーの普及は早いと見る。

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