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世界の機関投資家、企業の水リスク対策注目

洪水や、水の枯渇、水質汚濁などのリスクを軽減
 機関投資家が投資先企業の水リスク対策を投資判断に活用する動きが広がりそうだ。国際的な非政府組織「CDP」は1000社以上を対象に水リスクへの対応に関する格付け調査を実施。この結果をESG(環境、社会、統治)投資の一環として投資先の企業分析で活用する動きが出始めている。将来、投資判断に直接活用する動きが広がれば企業の洪水や水不足などの水リスク対策は株価や資金調達にまで影響が広がる可能性がある。
 

 水リスクは今や企業にとって無視できない経営課題。2011年にタイで洪水が発生した際には700社以上の生産設備が冠水し、工業団地の被害額は1兆7000億円もの高額となった。16年にはインド西部で大干ばつが生じ、3億人以上が水不足に悩まされた。

 事業会社の対応としては代替生産地や調達、物流の確保など非常時でもサプライチェーンが機能するためのBCP対策が先行して実施されてきた。

 こうしたリスク対策のニーズを受け、コンサルティング会社も関連のサービスを強化。MS&ADグループのインターリスク総研では水の枯渇状況、水質汚濁の状況、洪水の状況の観点から水リスクを簡易評価できるサービスを開発、「商社や紙パルプ会社、自動車メーカーなどの引き合いが多い」(寺崎康介事業リスクマネジメント部上席コンサルタント)という。

 さらに今後は、機関投資家からの評価も加わりそうだ。英に本拠地を置く「CDP」は気候変動や水リスクの対応について世界の主要企業1000社以上を調査し、結果を企業別にA、B、Cなどと格付けして公表している。

 この取り組みに世界の機関投資家が賛同し、日本からは野村ホールディングス(HD)やニッセイアセットマネジメントのほか、第一生命HDもグループの運用会社を通じてCDPに署名。野村HDでは傘下の運用会社でCDPの開示情報を調査活動で一部活用する動きがあるという。

 運用高度化の一環として、ESG投資は機関投資家の主要な取り組みの一つになりつつある。仮にCDPの調査を投資判断に直接活用する動きが広がれば、資本市場への影響も高まる。事業会社にとって、積極的な水リスク対策と情報開示が投資家から資金を調達する呼び水となる可能性がありそうだ。
日刊工業新聞 2017年6月14日 金融面
高屋優理
高屋優理 Takaya Yuri 編集局第二産業部 記者
海外展開の拡大などで、企業活動のリスクが多様化する中で、リスク回避の手法も多様化していくということの一例かと思います。

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