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「安全と安心」の違いとは?医療現場では重要な課題

人と人との信頼関係が必要
 最近、豊洲市場への移転問題で、「安全と安心」の報道を目にします。有害な事象があっても何らかの対応によって害は生じないと説明できれば安全であり、一方、安心は気持ちの問題であるから物事を進めるためには重要視の必要はないと議論になっているようです。

 医療において安全と安心は重要な課題です。重大な事故が起きないように病院には医療安全管理者がいて、医療事故ゼロを目指して取り組んでいます。安全を科学と捉え、合理的なプロセスを踏むことで事故はかなり減らせます。

 他方、安心は将来において自分の治療が安全であると確信できる気持ちと考えます。検査データは信用できるか、診断は正確か、スタッフの技術は確かで、いかなる時も冷静に対処できるかなどの心配は、ほぼ起こらないと確信できることで安心が生じるように思います。

 安全は科学的根拠により行う積み上げであり、安心は安全に対する医療者の姿勢を「信頼」してくれた時に生じる気持ちです。理性的な理解から気持ちという心に化学変化が起きるためには、人と人との信頼関係が必要です。つまり“安全×信頼”という掛け算で安心が生まれるように思えるのです。

 医療では「納得と満足」という掛け算の関係もあります。正しい医学的根拠に基づいて治療を行っても、不幸な結果になる場合もあるのが医療です。

 望まない状況では医学的に説明しても、患者さんに納得を得るのが精いっぱいで、通常満足には至りません。しかし、満足を得たと感ずるときもあります。

 それは患者さんのために医師らスタッフが一生懸命な姿を見て「感動」を引き出した時に生じます。感動は手術がうまくいった場合など良好な経過では導きやすいのですが、不幸な経過の場合、我々の誠意をもって代えるしかありません。ここにも“納得(理性)×感動(信頼)”で満足(心)を得るという掛け算があるように思います。

 私たちは理性的な事象だけの無味乾燥な社会で生活しているのではなく、人と人がいろいろな関係で結びつきあいながら、さまざまな気持ちを生じさせる心渦巻く世界に生きています。

 良い気持ちは、良い関係との掛け算でしか導き出せません。私たちは患者さんと良い関係を築き、安心と満足を導き出したいと考えています。豊洲もそうした結果になってくれることを期待いたします。

(文=猪口正孝・医療法人社団直和会 社会医療法人社団正志会理事長) 
日刊工業新聞2017年6月30日
昆梓紗
昆梓紗 Kon Azusa デジタルメディア局DX編集部 記者
以前の記事でもありましたが、医療機関も「口コミ」が見られる時代。そういった面でも患者さんやその家族との関わり方も大変重要になってくるのでしょう。

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