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東芝だけじゃない!政投銀、“社会の利益”につながるM&A後押し

アワード通じ企業の価値を評価。今後は地銀との連携も
東芝だけじゃない!政投銀、“社会の利益”につながるM&A後押し

柳政投銀社長(左)とフタムラ化学の長江社長

 日本政策投資銀行が社会的価値に着眼したM&Aの普及に力を入れている。M&Aは企業の成長戦略の有力な手段としてその経済的価値が注目されがちだが、「環境や安全、地方創生につながるような社会的価値の高いものも多くある」(柳正憲社長)。

 政投銀が日々手がけるM&A支援業務もそうだが、2015年から始めた表彰制度「社会的価値・資本創出型M&Aアワード」も普及の一環だ。今回の受賞の顔ぶれからもM&Aが及ぼす社会的価値が読み取れる。5月に都内で開いた同アワードの式典で柳政投銀社長は「いずれも社会的課題の解決をリードするケースだ」と評価した。

 同アワードは政投銀が独自に開発した評価システムにより社会的価値や資本の創出に優れたディールを表彰するもの。今回大賞を受賞したのは、フタムラ化学(名古屋市中村区)が英イノービアグループからセルロースフィルム事業を買収した件だ。イノービアが持つ環境負荷の低いセルロース製品を自社製品に取り込み、日本やアジアで拡販につなげる。

 注目は買収を国内外の工場の機能再編につなげたことだ。主力の大垣工場(岐阜県大垣市)は、段階的に拡張を進め非効率なことが課題だったが、稼働率が高くなかなか効率化に手がつけられなかった。

 「買収で手に入れた米工場に生産を一部移管し空いた部分で再構築した」と長江泰雄フタムラ化学社長は説明する。こうして「国内で環境負荷の低い技術での製造ラインの立ち上げを可能にした」(山本貴之政投銀執行役員)点が評価された。国内のモノづくりに最新の環境技術を定着させる意義は大きい。

 特別賞を受賞したのはANAホールディングスがベトナム航空に資本参加した件。ANAの航空機の安全運行ノウハウを共有することで日本とベトナム間の航空事業で安全や環境で優れたサービスが期待されている。

 特に評価されたのは国内の地方都市への共同運航をすることでインバウンド観光と地方経済の活性化にも貢献できることだ。

 古河電池によるベトナムのバッテリーメーカーのPINACOへの資本参加も特別賞を受賞した。古河電池がPINACOを通して普及を狙うのは充電スピードが速く寿命も長いアイドリングストップに対応した最新型のバッテリー。

 ベトナムの交通社会での環境・安全面の改善が期待されているだけでなく製造工程で使用する有害な鉛を完全回収する技術を広げることが評価された。
日刊工業新聞2017年6月20日
池田勝敏
池田勝敏 Ikeda Toshikatsu 編集局経済部 編集委員
アワードは今回で3回目。事業承継の支援ニーズの高まりなどで地方企業のM&A案件が増えている。柳社長は「地方銀行と連携してアワードを拡充していきたい」と、地銀が支援するM&A案件を推薦するよう積極的に働きかけていく。地方を巻き込んで社会的価値につながるM&A支援を後押しする考えだ。

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