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高精度地図のテックベンチャー、データもカネも集まる鉱脈生まれる

国内全ての高速道路、専用道路の3次元地図を実用化へ
高精度地図のテックベンチャー、データもカネも集まる鉱脈生まれる

ダイナミックマップ基盤企画公式ページより

 産業革新機構、三菱電機など7社は13日、自動運転用3次元地図を開発するダイナミックマップ基盤企画(DMP、東京都港区)が実施する第三者割当増資を引き受け、総額37億円を出資すると発表した。DMPは出資金を活用し2018年度内に国内全ての高速道路、自動車専用道路の3次元地図を実用化する。

 DMPは30日付で社名を「ダイナミックマップ基盤」に変更し企画会社から事業会社に移行する。7社の出資とは別にダイハツ工業が新規出資を決め、DMPの資本総額は3億円から40億円に増える。今後、約30億円を投じ3次元地図を作製する計画だ。

 DMPの中島務社長は都内で開いた会見で「3次元データの活用は日本の競争力強化につながる。株主やパートナーと連携して活動していきたい」と述べた。

 DMPは16年6月に電機や地図、自動車メーカーなどの出資で設立した。自動運転地図の開発競争が激化しており、当初計画より1年前倒しで地図データの実用化に着手することにした。
DMPの中島務社長(写真中央)

日刊工業新聞2017年6月14日



政府の戦略、ITSよりもデータ整備前面に


 自動運転の政府施策についてデータ重視の姿勢が明確になった。政府の高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT総合戦略本部、本部長=安倍晋三首相)がまとめた「官民ITS構想・ロードマップ2017」では、インフラ整備よりもデータ整備が前面に打ち出された。高度道路交通システム(ITS)のロードマップでありながら、ITSに依存しない自動運転開発が鮮明になっている。

 ロードマップでは自動運転用の人工知能(AI)の学習に活用するデータ戦略が示された。ITSジャパンの天野肇専務理事は「自動運転技術と交通データなどの活用は不可分」と説明する。

 自動運転に必須となる歩行者や車両の認識は、カメラ映像と画像認識AIの組み合わせが開発の主流になっている。AIの認識精度を高め、AIの性能を評価するために走行映像データが重要だ。

 各企業が個別に整備している映像データや公的機関が整備するデータベースを協調して活用するため、17年度中に基本指針を策定する。

 高精度地図データ(ダイナミックマップ)では、各社の自動運転車両の走行データを取り込んだり、防災や観光などのデータを利用するための標準やルールを18年度中に整備する。

 ダイナミックマップにさまざまなデータを統合すれば自動運転技術を利用したサービスの幅を広げられる。

 一方、路車間通信や歩車間通信などのITSインフラへの公共投資は示されなかった。内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)で次世代インフラの技術開発を進めてきたが「全国の信号機を自動運転用に整備し直すのは現実的に難しい」(天野専務理事)ためだ。

 インフラに依存する自動運転車を開発しても、インフラのない海外市場には売れない。そこで民間主導の車両開発と、二次利用しやすいデータ整備が中心となっている。

 また自動運転技術の評価認証にもデータは重要だ。例えば画像認識AIの精度を検証するにはデータが必要になる。政府は17年度に政府全体の法制度整備の大綱を策定し、国土交通省のシステム安全性評価、警察庁の交通ルール改定などの、省庁横断的な計画をまとめる。

 交通ルールが変われば、システムの要求水準や評価用データが変わるため、互いの進捗(しんちょく)に合わせて制度を修正していく。

 計画では20年にはシステムが全自動で車両を運転する遠隔型自動運転サービスを実現する。各省庁はそれまでに交通ルールや技術評価のめどをつける必要がある。

 内閣府の鶴保庸介大臣は「計画策定は目的ではない。実行に向けてPDCAサイクルを回していく」と強調する。データ整備と制度設計を軸にタフな改革が進んでいる。
                

(文=小寺貴之)

日刊工業新聞2017年6月2日

小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
 発表会では独ヒアとの協業開始も発表されました。ムーンJリーAPACオートモーティブセールス副社長は「海外も日本もまずは自動車専用道からデジタル化する。優先順位はDMPと同じで連携しやすい」と仰ってました。自動運転が導入されるのは自動車専用道からで、DMPは高速道路や自動車専用道3万kmのダイナミックマップを整備します。これに約30億円かかり調達額のほとんどを使ってしまいます。ただダイナミックマップの利用は自動運転よりも運転支援のADAS利用の方が多くなりそうです。これは一般道の方が利用数は多いです。  またダイナミックマップは防災やサービス、インフラメンテなどの二次利用を広げて投資を回収しようと算段しています。これも一般道の方が大きいです。自動車専用道3万kmで二次利用サービスのひな型を作れるかどうか。DMPの中島社長は「自動車専用道に比べて一般道は標識など登録する物が多い。製作コストは1万km、10億円では済まない」と説明します。一般道整備の前にデータにどれだけ付加価値を付けられるかが勝負所です。  ちなみにヤマトと首都高速道路の連携検討開始も発表されました。物流拠点を行き来するトラックは定期的に同じコースをプロドライバーが走ります。ダイナミックマップを車両計測データで更新する際に「プロはピシッとぶれなく、一定速度でスキャンしてくれる。ふらついた計測データはいくら安くても使い物にならない」(中島社長)そうです。ヤマトにとっては新たな収入源に育つかもしれません。  また首都高とはダイナミックマップとインフラ構造物のメンテ応用を検討します。ダイナミックマップはインフラにとっては上っ面だけのデータなので、建設時の構造物データなどと統合しないと劣化箇所を探せないと思います。ITS構想はデータ整備に舵を切り、政府全体はデータ利活用を推進します。いまDMPや革新機構が欲しいのはデータから価値を生む実績です。データテックベンチャーにとってはデータもカネも集まる鉱脈ができたといえると思います。

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