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不適切会計の富士ゼロックス、“富士フイルムカラー”で出直し

「雨降って、地固まる」か。一体感やスピード感は構造転換にプラス
不適切会計の富士ゼロックス、“富士フイルムカラー”で出直し

富士フイルムHDの古森会長兼CEO

 富士ゼロックスの海外子会社による不適切会計は、事務機器市場の厳しさを浮き彫りにした。顧客に大企業が多い同社は業界の“優等生”とされ、利幅の少ない単品販売からソリューション型ビジネスへの転換を目指していた。そんな企業でさえ、不適切な会計が発覚し、その隠蔽(いんぺい)も指摘された。内部統制の強化と親会社の富士フイルムホールディングス(HD)との融合を図ることで、不祥事から立ち直れるか注目される。

 富士フイルムHDは今回の問題に対する人事上の措置として、山本忠人富士ゼロックス会長を含む役員6人を退任させる処分を決めた。富士フイルムHD出身の役員が増加し、会長には古森重隆富士フイルムHD会長が就く。富士フイルムHDの2010―15年度の株主資本に与える影響額の累計は281億円で、金額の規模からすると厳しい措置にも見える。

 ただ第三者委員会の調査報告書からは、複合的で根深い問題があると見受けられた。原因の根本としてはニュージーランド子会社幹部による不適切会計の拡大に加え、内部監査に独立性が欠如していた組織的な問題や、富士ゼロックス幹部の隠蔽体質を指摘された。

 楽天証券経済研究所の窪田真之所長は「日本企業の対応は甘いことが多い。グローバルの基準では、今回の措置は普通ではないか」とみる。

 東芝をはじめ、日本企業の不適切会計問題は海外でも注目されている。富士フイルムHDは海外の投資家や自社の株価を意識した上で、より厳しい措置を取った可能性がある。

 また富士フイルムHDから富士ゼロックスに役員を送り込み、ガバナンス強化のための実務者を増やすことで、徹底的に内部統制を強化するというメッセージを発したとみられる。

 一方で気がかりなのは、富士ゼロックスのビジネスへの影響だ。ブランドイメージの悪化が懸念されるが、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の小宮知希シニアアナリストは「BツーB(企業間)ビジネスのため(受注減のような)影響はないだろう」と話す。同様のケースでは、オリンパス問題も懸念されたほどの影響は出なかった。

 また、富士ゼロックスはソリューション・サービスを中心としたビジネスへの転換を進めているが、この取り組みへの影響も注視される。退任の決まった山本富士ゼロックス会長は社長時代に「複写機卒業」を宣言し、競合相手に先駆けてビジネス転換を始めた立役者でもある。

 楽天証券経済研究所の窪田所長は「新ビジネスへ転換するバイタリティーは、富士フイルムグループのDNA。停滞することはない」と指摘し、むしろ構造改革は加速するとみる。

 両社は重複事業を抱えているが、富士ゼロックスの独立性の高さ故に、集約が進んでいなかった。この点については、幹部の刷新によって融合が加速する可能性がある。「両社の会長が古森氏に統一され、一体感やスピード感が出てくれば(構造転換に)プラスになる」(小宮シニアアナリスト)と分析する。
(文=梶原洵子)
日刊工業新聞2017年6月14日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
12日に開いた会見で、富士フイルムHDの助野健児社長は「『雨降って、地固まる』としたい」と語った。富士ゼロックスは“富士フイルムカラー”で出直し、構造転換に挑むことになる。 (日刊工業新聞第一産業部・梶原洵子)

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