ニュースイッチ

障害者スポーツ通じてダイバーシティーの体感醸成

スキー部と車いす陸上部を持つ日立ソリューションズ
障害者スポーツ通じてダイバーシティーの体感醸成

競技中の陸上部の久保恒造選手

 障害者スポーツは、ようやく認知度が上がりつつあるが、まだ競技環境は厳しい。こうした状況の中、日立ソリューションズは、その選手らを長年にわたり支援し続けてきた。その活動は、企業が義務的に行う社会貢献ではない。一人でも強い選手を育成して競技人口を増やし、人気スポーツとして羽ばたかせたいという思いが根底にある。

 日立ソリューションズの障害者スポーツチームは「アウローラ」。同社の前身である日立システムアンドサービスが2004年11月に立ち上げた。設立した理由は「社員の一体感の醸成」が目的だった。

 障害者スポーツチームはスキー部と車いす陸上部で構成しており、現在は監督やコーチ、ジュニア育成選手など計8人が在籍する。ジュニア選手以外は同社に入社し、練習や大会がなければ業務に従事する。管理部門や営業サポートなど事務を中心にした業務に携わる部員が多い。社内のバリアフリー化など職場環境の改善にも関わっている。

 これまでトリノ、バンクーバー、ソチ、リオのパラリンピックに代表選手を輩出。合計で金3個、銀2個、銅2個のメダルを獲得している。バンクーバーで銀メダルを獲得した元選手の太田涉子さんは「仕事をしたり、仲間と楽しんだりしたことで、バランスよく競技生活を続けられた」と振り返る。引退後は人事総務本部に所属し、社内掲示板などの管理といった業務に携わるほか、後援会事務局として同チームを支える。

 同チームを統括する石川浩常務執行役員は、設立の目的であった社員の一体感について「(国際大会での活躍などにより)大いに貢献してくれている」と満足する。今後はさらなる波及効果がありそうだと手応えを感じている。

 例えばシーズンオフ時、選手は社内で働いているため、ダイバーシティーに対する意識も高まっているという。また、北米や中国、インドなどに海外子会社も増えているため、国際大会の応援を通じて「グローバルで社員の一体感の醸成を促してくれるのではないか」(石川常務執行役員)と期待する。

 今後は「障害者スポーツを盛り上げるために貢献したい」(同)としている。それにはやはり、何よりも強い選手を育てることが重要だ。その一環として、18年に開催される平昌パラリンピックに向け、自社の位置情報技術などを活用し、平昌のコースをシミュレーションできるような仕組みを開発している。

 設立当時から同チームの監督を務める荒井秀樹人事総務本部部長は「スキーや陸上は個人競技ではあるが、周辺スタッフとの呼吸も重要で、チームスポーツの側面もある」と、競技としての魅力を語る。

 障害者スポーツは20年の東京パラリンピックの開催により、注目されつつあり、選手を支援する企業も出てきた。だが、それを一過性のものにしないためにも「当社以外の実業団チームができれば」(荒井部長)というのが同社の願いだ。
スキー部の新田佳浩選手の競技中の様子

日刊工業新聞 2017年6月5日
斉藤陽一
斉藤陽一 Saito Yoichi 編集局第一産業部 デスク
 選手引退後のセカンドライフを考えた場合、「働きながら練習や大会に参加する」という方法は一番理想的と言えそうです。

編集部のおすすめ