ニュースイッチ

地方創生の余波に揺れる中央大。多摩と都心が入れ替わり? 

酒井学長に聞く「実学教育で質量ともにトップに立つ」
地方創生の余波に揺れる中央大。多摩と都心が入れ替わり? 

中大OBの新海誠監督(左、昨年の母校での講演=中央大公式ニュース動画より)

 法学と資格試験に強い中央大学は、司法試験で毎年130―200人の合格者を輩出し、公認会計士は2016年度に96人を輩出して全国2位。この実学教育を向上させるため都心キャンパスの整備を進める。22年までに後楽園キャンパス(東京都文京区)を再整備し、多摩キャンパス(同八王子市)から文系学部の一部を移す計画だ。都心回帰は卒業生の念願でもある。狙いと戦略を酒井正三郎学長に聞いた。

 ―25年を見据えた中長期事業計画で司法試験、公認会計士試験、国家公務員総合職試験の合格者数トップを目指します。
 「質と量の両方を高める。司法試験の累積合格率で75%、人数は全国1位を目指す。16年度合格者の祝賀会には240人の卒業生が集まった。中央大法科大学院出身者は136人。約100人が中央大法学部を卒業し、他大学の法科大学院で学び合格した。これは優秀な人材が流出してしまったともいえる。後楽園キャンパス再整備で定着率を高めたい」

 ―中央大は卒業生のネットワークが財産になっていると聞きます。
 「学内に資格試験の勉強会がいくつもある。卒業生が学生の面倒をみてくれている。弁護士会の会長など、トップクラスの実務家から試験対策や実務の両面で指導を頂く。後楽園キャンパスの再整備で卒業生は訪ねやすくなり、大学との距離がより近づくはずだ。法科大学院と学部の一体展開と合わせ、教育環境を盤石にしたい」

 ―研究力強化は。
 「アジア太平洋地域の多様な文化や法秩序を共存させる国際研究が進んでいる。韓国やタイ、シンガポールなどの研究者とデータプライバシーや紛争解決などのデータベースを整備する。比較法研究の国際拠点を目指す」

 ―産学連携などの外部資金獲得策は。
 「外部資金で大型研究を進める組織『研究開発機構』で21ユニットが活動している。『法令工学ユニット』では人工知能(AI)技術で法令の論理整合性を解析するなど、法令作成や改定作業の支援技術を開発する。水害や流体など『水』の研究も強みだ。個々の研究は世界で戦えるレベルにある。ただ研究者はみな多忙だ。サポート体制を強化し、共同研究に打ち込める時間を増やしたい」
酒井正三郎学長

【略歴】さかい・しょうざぶろう 77年(昭52)中央大学大学院商学研究科修了。80年中央大助手、83年専任講師、84年助教授、92年教授。14年から現職。宮城県出身、66歳。
日刊工業新聞2017年6月1日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
中央大の中計では後楽園キャンパスの整備と文系学部の一部移転が大きな柱です。文系と理系が一体的に学べる環境は次世代の人材育成に必須です。ですが内閣官房まち・ひと・しごと創生本部の有識者会議は東京23区での定員増を認めなくするよう中間報告をまとめました。中計を揺るがしかねない向かい風が吹いています。定員抑制で大学生の東京流入を止めても、就職時の東京流入が止まるかどうか難しいところです。中央大としては首都圏で切磋琢磨した若者が、その経験や人脈を地方に持って帰って貢献していると反論したいところです。数字で示せれば首都圏で学んだ人材を惹き付けるだけの魅力を、地方に創る議論に戻ります。酒井学長や卒業生たちの力が試される局面です。

編集部のおすすめ