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実質賃金が伸び悩んでるのに「キッズウィーク」は何のために?

経団連などは歓迎も、プレミアムフライデーの二の舞に
 政府が新たな大型連休「キッズウィーク」の創設を検討している。小・中学校の長期休暇(夏休みなど)の一部を当該期間から別の期間に移し、親が柔軟に有給休暇を取得できるようにする試みだ。地域や学校ごとに移行する休暇の時期をずらすことで観光地の混雑は緩和され、夏季に割高な宿泊費なども軽減できると皮算用する。ただ実質賃金が伸び悩む中で、家族旅行などの機会がどこまで増えるかは見通しにくい。

 安倍晋三首相は5月24日の政府の教育再生実行会議で「キッズウィーク」を導入する考えを表明した。同会議は6月上旬にもまとめる提言に盛り込む方向で調整を進める。

 「観光産業には大きな経済効果が期待される」―。経団連の榊原定征会長は早くも歓迎の意向を表明している。「政府にはしっかり制度設計を行い実行に移してもらいたい」とし、経済界としても積極的な年休取得を呼びかける構えだ。

 経済同友会も政策提言などを通じ、観光産業の活性化を通じた経済成長に期待。全国一律の大型連休など硬直的な雇用・労働慣行の見直しが必要と指摘してきた。

 休日分散化は過去にも検討されてきた。旧民主党(現民進党)政権下で、秋の大型連休を地域別に分散して設定するといった案が浮上した際には、1兆8000億円規模の国内旅行需要があると試算された。

 今回の構想がこれまでと異なるのは、財政支出を伴わない経済対策としてだけでなく、「働き方改革」の観点からも政権と経済界が一体となって取り組もうとしている点だ。経団連の榊原会長はこれを機に会員企業に「年3日程度の追加的な年休取得を呼びかける」と意気込む。

 ただ、中小企業の立場からは慎重な見方もある。日本商工会議所の三村明夫会頭は「狙いは分かる」と一定の理解を示しながらも、「従業員が一斉に休むことになると問題がある」と、議論の行方を注視する構えだ。

 実質賃金の伸び悩みも影を落とす。シンクタンクの間では、「実質賃金はマイナス圏で推移する。エネルギー価格の上昇に加え、円安基調も物価の押し上げ要因となり、個人消費に影響する」との見方が少なくない。

 休日を増やし、内需主導型の経済に転換させた成功例とされるのが、1930年代の世界大恐慌後のフランス。労働者に年2週間の有給休暇の取得を保障する法律(通称、バカンス法)を制定。これにより新たな産業や文化が育ったという。

 国内総生産(GDP)の7割をサービス産業が占める日本も、同様の効果を期待できるのか。自由な時間が増えても、消費喚起の効果が限定的とされるプレミアムフライデーの二の舞になっては元も子もない。
(文=神崎明子)
日刊工業新聞2017年5月31日
神崎明子
神崎明子 Kanzaki Akiko 東京支社 編集委員
休暇取得への企業の理解と、実質賃金をさらに上昇させる構造改革なども同時並行で推し進めることが求められる。

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