ニュースイッチ

大量廃業につながる社長の「経営のことは自分が一番分かっている」

高齢化する中小企業の経営者。事業承継に大きな壁
 国内の事業所の約9割を占め、日本経済の屋台骨を支える中小企業が存廃の分かれ目を迎えている。背景にあるのは、経営者の高齢化と後継者の確保・育成の難しさ。2020年頃には、数十万人の経営者が70歳前後となり、引退時期に差しかかる。後継者難による企業数の減少傾向も続いており、中小企業の事業承継は大きな経営課題だ。産業界にとっても雇用確保にとどまらず、技術やノウハウを次世代に紡ぐ上で対策が急務となっている。

 中小企業庁によると、中小企業の経営者の年齢で最も多いのは15年時点で66歳。20年前の47歳から19歳高くなった。直近の経営者の平均引退年齢は、中規模企業で67・7歳、小規模事業者では70・5歳と高齢化が進む。

 国内の企業数も減少の一途をたどる。14年の国内企業数は約382万社。15年間で100万社以上が減った。

 団塊世代の大量引退の時期が迫る一方、遅れているのが後継者の確保・育成だ。日本政策金融公庫総合研究所の調査では、60歳以上の経営者の半数以上が廃業を予定。このうち28・6%が後継者難を廃業理由に挙げた。

 後継者難の要因の一つが経営者の意識。特に創業者の場合、「自分がいないと金融機関の信用を得られない」「経営のことは自分が一番分かっている」など、社長業に固執しがちで準備を始めるタイミングを逃すことが多い。日本総合研究所リサーチ・コンサルティング部門の手塚貞治プリンシパルは「カリスマ的な経営者ほど、こうした傾向が強い」と指摘する。

 中小企業の多くの経営者は高度経済成長期に創業し、才覚と行動力で会社を大きくしてきた。事業承継支援に取り組む事業承継センター(東京都港区)の内藤博社長は「こうした経営者は仕事こそ生きがい。病気などやむを得ない事態になって初めて事業承継の準備に取りかかるケースがある」と分析する。

 さらに事業承継を決断しても、親族への引き継ぎでは、家族の不仲など家庭内の問題が絡むことがあり、他者には相談しにくい。金融機関など外部に社内事情を知られたくない側面もあり、承継が遅々として進まない。

 こうした状況に政府も手を打つ。中小企業庁は5年間の集中実施期間を設け25万―30万社に事業承継診断を実施。業態転換支援や事業引継ぎ支援センターの体制強化などを通じて経営者に“気づき”を与え、後継者が継ぎたくなる環境や、事業転換や再編・統合しやすい環境を整備する。

 中小企業の経営を次代へ紡ぐ環境は整いつつある。ただ、経営者の多くは会社を大きくすることに目が向きがちで、後継者育成の発想に乏しい。どうすれば経営者が事業承継の準備にとりかかるか―。政策の難所はこの先にある。
                     
日刊工業新聞2017年5月18日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
 現在、事業承継のタイミングを迎えている多くの経営者は若い時に起業し、数多くの失敗を経て成功体験を導き出してきた。後継者の経験の浅さを理由にバトンを渡す時期が遅れると、経営者として同様のスキルやノウハウを得られないだけでなく、挑戦の気概が失われビジネスでのイノベーションの芽すら摘みかねない。  家族的な半面、閉鎖的な側面がある中小企業では、切羽詰まった状況になっても、社内での自発的な変化は期待しにくい。事業承継が技術やノウハウの継承を含む経営戦略の問題であるという理解を経営者に促すために、地道に啓発を続けることが肝要になる。 (日刊工業新聞社・古谷一樹)

編集部のおすすめ