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降格予定だったジャパンディスプレイのCOOはなぜ続投するのか

アップルと誰が交渉するの?有機EL戦略で混迷続く恐れも
降格予定だったジャパンディスプレイのCOOはなぜ続投するのか

有賀氏(左)と東入来氏

 ジャパンディスプレイ(JDI)が、すでに公表していたトップ人事を覆す異例の決定を下した。取締役へと実質の降格予定だった有賀修二社長兼最高執行責任者(COO)が続投し、社長兼最高経営責任者(CEO)に就任予定だったJOLED(東京都千代田区)の東入来(ひがしいりき)信博社長は、会長兼CEOに就く。代表権は東入来氏のみが持ち経営の主導権は握るが、前例のない交代劇からは経営の混迷ぶりが透けて見える。

 「誰が顧客との交渉をするのか」―。東入来氏がトップに、有賀氏が取締役に就任する人事が発表された3月下旬、JDIの社内外から新体制を心配する声が漏れた。

 米アップルなど主要顧客との交渉は、これまで有賀氏が一手に引き受けていたからだ。業界関係者は「有賀氏の存在は事業を進める上で不可欠だ」と指摘する。

 JDIが置かれている状況は厳しい。2017年3月期は新型パネル生産の立ち上げや歩留まり改善が遅れるなど、3期連続の当期赤字だった。

 17年4―6月期も、スマートフォンへの有機エレクトロ・ルミネッセンス(EL)パネル採用加速による中国メーカーの買い控えなどが影響し、150億円の営業赤字を予想する。

 今後は液晶重視の戦略を見直し、有機ELパネル開発に注力する姿勢を鮮明にするが、量産開始は18年の予定。「17―18年度は厳しい経営になる」(有賀氏)。

 さらなる構造改革も示唆しており、生産拠点の統廃合も視野に入る。一部の証券アナリストからは、4期連続の当期赤字の可能性も指摘される。

 JDIは有賀氏の続投理由を「ディスプレー業界での豊富な経験を持ち、新体制を考える中で役職を継続することが最適」と説明する。厳しい経営環境の中、これ以上の業績への影響を避ける狙いがあったとみられる。

 JDIの経営が悪化する一方、東入来氏が社長を務め、12月末までに子会社化する予定のJOLEDも、印刷式有機ELパネルの事業化に向け動き出した。

 当面は10インチ以上の中型パネルに軸足を置くが「技術的にできるのなら全て印刷でやるのがいいのではないか」(東入来氏)。印刷方式での小型有機ELパネルの開発を継続しており、経営資源が分散される恐れがある。

 新たな体制では、親会社である産業革新機構の勝又幹英社長が社外取締役に就任することも発表された。それぞれの思惑が入り乱れれば、経営の混乱は避けられない。

あるサプライヤー幹部は「赤字の続く状況で、内部でゴタゴタしている場合じゃない」と切り捨てる。仕切り直しとなった新経営陣は、事業を軌道に乗せて業績を立て直せるのか。勝負の年が始まる。
(文=政年佐貴恵)

【JOLEDは初製品のサンプル出荷を開始】

JOLED(東京都千代田区、東入来信博社長、03・5280・1600)は、印刷方式で作製した21・6型の4K有機エレクトロ・ルミネッセンス(EL)ディスプレーのサンプル出荷を始めたと発表した。同社にとって初の製品となる。すでにソニーの医療用モニターへの採用が決まった。秋頃から量産を始める予定で、医療用に加え今後はゲームやサイネージなどへ用途を広げる。

同日、都内で開いた自社展示会で明らかにした。ジャパンディスプレイ(JDI)の石川工場(石川県川北町)内に設置した量産試作ラインを活用して生産する。会見した東入来社長は「(有機EL材料を印刷で塗布する)印刷方式の技術は実用化レベルに到達した。本格的な事業化にかじを切る」と力を込めた。その上で「10型以上の大きさでは、印刷方式が有機EL製造の標準になりうる」と自信をみせた。

東入来社長は6月下旬にJDI社長に就任し、JOLEDは17年末までにJDIの子会社になる予定だ。

東入来社長はJDIの経営方針については明言を避けたが、「小型パネルはJDIが手がける蒸着方式、中型以上は印刷方式」とすみ分けができるとの見方を示した。
日刊工業新聞2017年5月18日、22日
政年佐貴惠
政年佐貴惠 Masatoshi Sakie 名古屋支社編集部 記者
3月に人事案が発表された当時、JDIは「有賀氏の執行範囲などについては検討中」としており、その去就が注目されていた。結局、続投ということになり、先行きを不安視していた関係者にとっては一安心といった所か。ただしこの先の経営は決して安泰ではない。構造改革をするにしても、研究開発をするにしてもお金がいる。再び資金繰りが悪化しても、また革新機構の奇策を使うという訳にはいかないだろう。なんとかこの苦境を乗り切ってほしい。

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