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米国市場でスバル一人勝ち。快進撃の裏に緻密な戦略を見た!

スバル車最大サイズの大型SUVは将来への試金石
米国市場でスバル一人勝ち。快進撃の裏に緻密な戦略を見た!

大型SUV「ASCENT(アセント)」のコンセプト車

 「北米向け新型スポーツ多目的車(SUV)で子育て層など新規顧客を狙いたい」と話すSUBARU(スバル)米販売会社スバル・オブ・アメリカの中村知美会長。主戦場の北米で来年3列シート搭載の大型SUVを発売する。4月にコンセプト車を披露。「サイズを大きくし、現地で受け入れられるデザインにした」と強調する。米国工場では、新型車の生産開始に向けた準備が進む。SUV人気で販売競争が激化しているが「正しい値付けを続けて、車の価値を下げない従来のビジネススタイルを守る」と前を見据える。

 コンセプト車「ASCENT(アセント)」は7人乗りで、スバル車の中で最大サイズの車種。「これまでにない広い室内空間をぜひ楽しんでもらいたい」。4月のニューヨーク国際自動車ショーのプレゼンテーションの場でスバルの米国販売会社、スバル・オブ・アメリカのトム・ドール社長は、世界初公開したアセントを前に、身ぶり手ぶりを交えこうアピールした。

 7人乗りを実現した広い室内空間で、全長5050ミリ×全幅1989ミリ×全高1839ミリメートルと主力SUV「アウトバック」、「フォレスター」を上回る。

 北米ではガソリン安を背景にセダンからSUVを含むライトトラックへ人気がシフトしており、Dセグメントの大型SUVはもちろん「3列シート搭載車の需要が伸びている」(中村知美会長)。

 アセントの投入により北米でこれまで取り込み切れなかった子育て層など新たな顧客を獲得し、北米市場でシェア拡大を狙う。

 スバルは過去に北米向け大型SUV「トライベッカ」を投入しており、アセントはその後継車種にあたる。ただトライベッカは大型SUVの位置付けだとはいえ、北米向けとしてはサイズが小さく、動力性能にも課題があった。このため販売が伸び悩み、14年に生産を終了した。

 アセントではトライベッカの反省材料を生かし、北米で受け入れられるデザインを追求した。あるスバル幹部は「米国ディーラーも『これなら受け入れられる。売れる』と太鼓判を押している」と強調する。

 ただ米国の自動車販売は減速感が漂う。4月の米国の新車販売台数は142万6126台で、前年同月より4・7%減った。前年割れは4カ月連続。日本メーカーでは、スバルだけが3・9%増やした。トヨタ自動車は4・4%減、ホンダは7・0%減だった。ゼネラル・モーターズ(GM)などの米大手3社も軒並み6~7%程度の減少になった。スバル車は米国でこれで65カ月連続で前年同月の販売実績を上回るなど快進撃が続く。

 一方、大型SUVを巡る競争は年々激しくなっており、トヨタのハイランダー、ホンダのパイロット、日産自動車のパスファインダーなどライバルは多い。各メーカーは競うように「奨励金」を投入して販売店に値引きを促し、販売台数を下支えしようとしているが、息切れが目立つ。
                    


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日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
アセントは英語で“上昇”や“上り坂”といった意味を持つ。その名の通りスバルは北米市場でさらに飛躍できるのか。アセントは今後を占う重要な車種の一つで、18年以降の販売の行方が注目される。 (日刊工業新聞第一産業部・下氏香菜子)

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