「早稲田の杜」 の小部屋が担うスマート社会

電力需要を調整するデマンドレスポンスの実証広がる

 早稲田大学の研究開発センター(東京都新宿区)には、冷蔵庫ほどの大きさの装置が並んだ実験室がある。室内でありながら電力系統を模擬できる装置だ。その横にある小さな部屋では大規模なデマンドレスポンス(DR、需要応答)の実証が始まろうとしている。DRは各地で実証が進み、ビジネス化されたものもあるが、いずれも小規模。この小部屋からは国内で例がない回数のDRを発動する予定だ。  DRはスマートグリッド(次世代電力網)の一つで、電力の供給が不足すると同じ電力会社の供給エリアにある工場やビルなど電力需要家が節電を分担して需給を調整する。これまで電力不足には供給側である電力会社が発電所を建設し、供給量を増やして対応してきた。これに対し、DRは需要家側が節電で対応し、需要を抑える。  実証を実施する「小部屋」は、早大と経済産業省が開設した「エネルギーマネジメントシステム新宿実証センター」の一室。通称「新宿実証」を指揮する早大先進グリッド技術研究所の林泰弘所長は「節電は発電と同じ価値」と話す。節電量が増えると発電所新設を回避でき、発電コストを抑えられる。このため節電した電力は発電した電力と等価となる。節電の価値が認められれば、節電量を生み出すDRがビジネスになる。実際に欧米ではDRが電力ビジネスとして成り立っている。  新宿実証でいくつか検証テーマがある一つにアグリゲーターと呼ぶ事業者と一緒に取り組む実証がある。アグリゲーターとは節電の“まとめ役”で、電力会社がDRを発動すると電力需要家に一斉に節電を要請。取りまとめた節電実績に応じて電力会社から報奨金を受け取り、需要家に配分する。新宿実証には日立製作所、東芝、エナリスなど6事業者がアグリゲーターとして参加する。  実際に東京電力はアグリゲーターと契約を結んでDRをビジネス化している。だが、発動されたDRの回数は12年が3回、13年はゼロで、ビジネスとしての可能性すら検証できていない。  新宿実証では「小部屋」を電力会社と見立てて、14年度は212回の発動を予定する。発動が大幅に増えることで事業性はもちろん、「DRに対する感度や即応性がわかる」(林所長)というように、DRの効果それ自体も検証可能だ。  経済産業省が横浜市など4地域で展開するスマートコミュニティー(次世代社会インフラ)の実証事業でもDRが実施されている。新宿実証も4地域と連携し、各地域にDRを発動している。マンションに電力を供給するNTTファシリティーズ、オリックス電力(東京都港区)はすでにDRをビジネス化。いずれも節電実績に応じて入居者に電力料金を割り引くサービスを提供している。  広がりつつあるDRだが認知度は低い。DRが日本に根づき、ビジネスとして発展できるか。早大発の国内最大規模の実証が試金石となる。 【用語】デマンドレスポンス=需要応答。電力需給逼迫(ひっぱく)時にビルや家庭など需要家が節電する。従来、電力会社が供給量を増やして需給調整をしていたが、需要応答は需要家側が調整する。欧米ではアグリゲーターと呼ぶ事業者が電力会社に代行して複数の需要家に節電を要請するビジネスが成立している。アグリゲーターや需要家は節電実績に応じて報奨金を受け取れる。 (日刊工業新聞2014年06月11日1面) <関連記事>  京セラは東急コミュニティー(東京都世田谷区)と共同で、電力が不足しそうな時に需要家に節電を要請して需給を調整するデマンドレスポンス(需要応答、DR)をマンション向けに実証した。節電要請を自動化する標準通信規格を使ったマンション向けDRは初めてとみられる。京セラはスーパーマーケット向けの自動DRに成功しており、将来の節電ビジネスの事業化につなげる。東急コミュニティーはDRによる節電効果を確認できれば、電力料金引き下げを入居者に訴求する。  東急コミュニティーが管理会社となっている大阪府内のファミリー向けマンション(80戸以上)で自動DRを実証した。電力需要が増える夕方から夜の時間帯に計5回DRを要請。入居者にはエアコンや照明など家電製品の使用を控えたり、外出を促したりした。  早稲田大学にあるサーバーを電力会社と見立て、DRの要請信号を発信。その信号を京セラのサーバが受信し、マンション入居者に節電要請メールを自動送信した。早大と京セラの間は標準通信規格「オープンADR2・0b」で信号のやりとりをした。  東急コミュニティーは住民のDRへの参加意欲を探るため、節電量に応じて1キロワット時当たり8円と5円の二つの割引料金を設定。節電を要請する前日、1時間前、DR実施中の3回メールを発信して参加を促した。今後、DRによる電力削減量を精査し、実際の効果を確認する。  東急コミュニティーはDRで電力料金が下がれば、マンション管理組合や入居者への付加価値になると見込む。京セラはDRを新規ビジネスとして検討しており、スーパーや社員宅1戸でオープンADR2・0bによる自動DRを実証。要請からエアコン、蓄電池の運転変更までのすべての自動化にも初めて成功している。

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